男と女はなぜ 1:1 なのか?

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生物学上のオスとメスとの違いは,その生殖細胞の大きさの違いに還元できると主張する学者もいます。 人間の場合,卵子は最大の細胞であり,一方最小の細胞は精子です。 鳥類の卵が一個の卵細胞であることを考えれば,メスは大きな卵子を作らなければならず, 生殖においてコストがかかります。 一方,オスは精子の生産にコストがかからないわけです。 こうして生殖という観点から見れば,子孫を増やすという行為のほとんどはメスにまかされ, オスは寄生者とでもいうような地位にいるとみなすこともできるわけです(したがって, 女性である皆さんが人類の進化の主役であり,男性である私はその女性に寄生する者なわけです。 寄生者だから, 行動もつつしんで規制(あぁ,また寒いダジャレを飛ばしてしまった...)しなければならないですね)。

オスが寄生的であれば,メスの価値は相対的に上がることになります。 事実,すべてのメスを妊娠させるためには,たった一匹のオスさえいればよい, という種は自然界に多く存在します(人間もそうですね)。 そうするとオスとメスの性比率が 1:1 では大量のオスがあまることになります (私もあまっている男の一人ですが T_T)。 では,なぜ人間の場合(というか,ほ乳類や鳥類ではほとんどが)男女比率が 1:1 なのでしょうか? 今回はこの問題を考えてみたいと思います (ちなみに,ほ乳類全体でみれば一夫多妻制の方が普通であり, 一夫一婦制は 5% 程度であるといわれていますね)。

脱線します。 人間の場合,実際には妊娠3ヶ月時において男女比は 120:100 くらいなのだそうです。 これは男児の子宮内死亡率が高いためであると説明されています。 出生時にはこの比率が 106:100 程度にまで下がります (世界的に見ると男児の比率が多い国と女児の方が多い国に分かれるとされています。 理由はナゾです)。 出生後も男児の方が死亡率が高いため,20 歳前後で男女比率は 1:1 程度になり, その後,年齢が上がるに従って,今度は逆転して女性の比率が高くなります (日本でも女性の平均寿命の方が男性の平均寿命よりも長いですね。 労働省の平成 20 年度簡易生命表によれば男性の平均寿命は 79.29 年,女性の平均寿命は 86.05 年です) 脱線終わり。

このことは「親の出費」という概念で説明され, 親の出費は,息子を作るときでも,娘を作るときでも等しいとされているのです。

たとえば,オスがメスよりも少なく生まれる集団があったとしましょう。 このとき,新たに生まれたオスは,新たに生まれたメスよりも多くの配偶者を獲得できます。 そのために,より多くの子をもうけることができるからです。 したがって、遺伝的にはオスの子をより多く産む親は,平均以上の孫を獲得できることになります。 このことに自然選択が働き,オスを産みやすい遺伝子は集団の中で広まっていきます。 こうして,オスの割合が増加していくことになります。 ところが, 今までより多くの子孫を残せるという意味で有利であったオスを産みやすい遺伝子の優位性は, 性比が 1:1 に近づくほど,その有利さが弱まっていくことになります。 以上が親の出費という概念の概略です。 この説明は,オスとメスを入れ替えても成り立つますので 1:1 で性比は均衡することとなります。 つまり, 1:1 の性比は 進化的に安定な戦略 ESS(Evolutionarily Stable Strategy の頭文字)であると言われます。 (ESS を一口で説明すると, 個体群のすべての個体が,その戦略を採用しているときに, 他の戦略は適応度が低いために個体群に侵入できなくなるような戦略,です。 イギリスの進化遺伝学者,ジョン・メイナード=スミスによって提唱されました) 進化的に安定な戦略については,進化的ゲーム理論の話題の回に,あらためてとりあげます。 子ども欲しいでしょ?将来産む赤ちゃんは男の子が欲しいですか?それとも女の子? でも,男の子か女の子かを産み分けることができないのは, この ESS が関与している可能性もあるかもですね。 ESS によって進化的に,性比がほぼ 1:1 なのですから, どちらの性が産まれてくるかはランダムだと言ってよいのでしょう。 性比の話だけに,男女産み分けの成否(またしても寒いダジャレ...^^;)は, 神のみぞ知ると。 もちろん例外もあって,ある種の魚は,水温の違いによって, オスを産むかメスを産むかが決まって来るという観察結果があります。 また,ある種の昆虫は生殖時期が早ければメスを,遅くなればオスを産む傾向があるそうです。 これなどは,メスは早く成熟した方が生存にとって有利(子孫を沢山残せる可能性が高まる)なので早く産み, オスの死亡率が高いので,後になっても産み続けるという進化の戦略であるとも言われております。

ということで,今回の雑学はおしまい。