お父さんに似た人を好きになる?(性戦略の差)

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自然界においては, メスの方がオスよりも繁殖に大きなエネルギーを費やし, そのためにほとんどの種でメスはオスにとって希少資源となります。 このことをベイトマンの原理と言ったりします。 (若くて健康的なみなさんですから言い寄ってくる男はいっぱいいるのでは?) これは,オスが大量の精子を作れるのに比べて, メスは限られた数の卵子しか作れないということに依存します。 人間の場合, 健康な男子であれば一日に約2億個の精子が生産できるとも試算されています。 しかも性的に元気な人なら高齢になっても精子を作ることができます (中国の思想家,孔子の父親は 60 歳以上であったとされていますね)。 一方,人間の女性は,一日どころか約一ヶ月に1個しか卵子を生産できません。 しかも卵子を生産できる期間は限られていて,初潮の始まる思春期初期から, 閉経する40-50代まで25年程度しかありません。 さらには,一度受精すると女性は 10 ヶ月もの間子をお腹に宿していなければなりません。 その間,新たな子どもを作るチャンスはまったくないわけです。 このような状況ですから,オスとメスとの性戦略には違いが現れてきます。

メスは多くのオスとつがいになっても, 自分で生産できる以上の子を持つことはできません。 一方,オスは多くのメスの卵子に自分の精子を受精させることができます。 つまり,オスはメスよりも多くの子の父親となれる可能性を持っているわけです。 オスの繁殖成功度(従ってより多くの子孫を残せる確率)は, 多くのメスとつがいになればなるほど増大します(これが男が浮気する理由かも? 不倫とか二股かけるとかって許せますか?)。 しかもオスにとっては産まれてきた子が確実に自分の子である保証はどこにもありません (オスがメスと共同して子育てする種では,オスには絶えずこの不安がつきまといます。 ひょっとしたら自分の遺伝子をまったく受け継いでいない子を養育しているのではないかと )。 一方,メスは我が子であることが容易に分かります(自分の産道を通って産まれてきた子が自分以外の遺伝子を持っている可能性はないですよね,当たり前ですが)。 ちょっと脱線します。産科で赤ちゃんが生まれると (みなさんも近い将来そういう機会があるわけですが), 仕事で忙しいとか,出張だとかで,出産にお父さんが立ち会えなかった場合に, 知らせを受けて駆けつけてきたお父さんに向かって, 看護婦さんは必ずこう言うというマニュアルがあるそうです。 「お父さん似ですね」と。そう言ってもらえないとオスとしては, 本当に自分の子であることが確信を持てないので困るわけです。脱線終わり。 さらに,メスの繁殖成功度は多くのオスとつがいになっても増大しません。 この結果,オスどおしはメスを争って互いに競争し, メスはどのオスとつがいになるか慎重に選好します。これが性淘汰の原因であるとされています。 ベイトマンはこう書いています。 「ほとんどの動物では, メスの繁殖は卵に多くの栄養をつぎ込まなければならないことによって厳しく制限される。 哺乳類では,それに相当するのは胎児の養育と母乳の生産である。 しかしオスの場合は精子の生産で繁殖が制限されることはめったにありそうにない。 むしろ彼にとって制限となるのは,受精させる機会か手の空いているメスの数であり, そして,一般的には,メスの繁殖はオスと比べて大きく制限されることになる。 これはほとんど常に,オスの無分別な熱意とメスの思慮深い受け身の組み合わせが見られる理由を説明している。」

このため,オスは多くのメスの性的関心を惹き付けるために,絶望的な努力をすることになります (私もオスですから努力してますが,滅多に成功した経験がありませんT_T)。 有名な話では,クジャクの尾羽はメスを惹き付けるために進化したとされていますね。

クジャクの羽

クジャクの美しい尾羽は,オスしか持っておらず, しかも長い尾羽はジャングルを飛び回るにはジャマなはずです。 さらに外敵に発見されやすいということも意味するとすれば, これは進化的に有利というより,性淘汰の観点からは,むしろ不利ですらあるはずです。 イギリスの遺伝学者,統計学者であるフィッシャーは, 「メスの嗜好は遺伝的に決まっており, それ以前の代で好まれた形質がより顕在化した個体を後の代のメスはさらに好む」 と考えたとされています(このことが人間の女性にもあてはまるかどうかは分かりません。 本当だとすれば,お母さんの好みとあなたの好みはだいたい同じになるとも考えられるのですが。 お父さんに似た人を好きになる,って人いますかー?)。

オスとメスとが異なる性戦略をもちいる理由(配偶者選択の理論) としては次の 3 つが考えられています(未来のダンナ様を選ぶときの参考にしてください^^)。

  1. ランナウェイ説
  2. パラサイト説(優良遺伝子理論)
  3. ハンディキャップ説

ランナウェイ説に従えば, オスのある形質(クジャクの尾羽)に対するメスの好みが, ある程度以上の頻度で集団内に広まると,その形質を持っているオスとしか, 配偶相手として選ばれなくなる。 メスがどういう形質を好みとするかは, 生物学的な意味や生存競争上の有用性とは関係しないとされます。 このため,獲得した形質は装飾的で実用的でない場合も多いというわけです(クジャクの尾羽はキレイなだけで実用的ではない)。 生存競争等として考えると,メスは必ずしも良質なオスを選んでいるわけではないのです。 (だとすると,今大好きだと思っている彼のことを,一度冷静に考え直してみた方がよいかも。 カッコ良かったり,やさしかったり,おもしろかったりする彼が, 必ずしも配偶相手として適切じゃないかもしれないから)

パラサイト説(優良遺伝子理論)とは, クジャクのオスの大きくてキレイな尾羽は,寄生虫などがついていない証拠であると考えるのです。 寄生虫などの感染によって羽の色や艶が変形したり退色するからというわけです。 つまり大きくて美しい尾羽は健康な証拠であり,優良な子を残せる証拠というわけです。 大きくて美しい尾羽を持っているオスのクジャクは, 寄生虫や感染症への耐性を持っていると期待できるので, メスは配偶相手として大きくて美しい尾羽を持ったオスを選ぶということです (大きくて美しい尾羽を持っていない私はどうすればいいんだか...)。 血液寄生虫におかされ易いある種の鳥は,鮮やかな色の羽を持っていると言われています。 寄生虫の方が,寄生主である鳥の羽の鮮やかさを選ぶとは考えられないので, 寄生者に苦しめられる鳥の方が,鮮やかな色の羽を持つように進化したと考えられるわけです。 (人間の場合は複雑ですよね。 健康そうに見える男子でも急にポックリ逝く突然死ってこともあるわけだし, 交通事故だったら避けようがないし)

ハンディキャップ説とは, クジャクの尾羽のディスプレイの美しさがエスカレートしていくのは, 各段階で強さを誇示する信号を放つからだと考えるのです。 クジャクの尾羽のようにメスによる選り好みの例とされる物は, メスが根拠もなく選んだ無用の長物ではなく,エサの確保の能力であったり, 肉体能力のような,何らかの適応的な形質を表していると考えます。 この考え方は,一見するとハンディキャップ (長い尾羽を持っているとジャングルの中を移動しにくい,外敵に発見されやすい)を負い, それを積極的に示すことが直接自己の生存や繁殖の利益になると考えるものです。 またハンディキャップ説はオスとしての優秀な性質に関係した形質(長くて美しい尾羽)が無くても, オスの尾羽が長くて美しければそれだけ,オスの質を表す指標になるため成り立ちやすいと考えます。 そのためハンディキャップによって発達した行動や形質は広く見られるようになると考えられています。 (やっぱカッコいい男の子とつきあうのがよいのかしらね)

ということで,今回の雑学はおしまい。 オスが数多くのメスと交尾しようとし(ちゃらい男がナンパに走る理由?), メスが交尾相手を慎重に選ぶ(女の子はナンパされてもそう簡単にはついていかない理由?) 理由の一つです。 なんだかモテない男の泣き言にしかなっていないような気がしますが, 私はナンパなんかしようとすると, 失敗の連続で, 船が難破(またダジャレ?)するように海よりも深く落ち込んでしまいます。