レポートについての批評・注意

永島 孝

いままでに提出されたレポートや答案についての批評, レポートに目立った誤りなどについて書きます. レポートを書くときの参考にして下さい.
なお, 科目名は "現代", "世界" と略記します.

よいレポートの例

その他にもよいレポートがたくさんありました


よくある誤り

数学の世界

「日本人に独創性はない」という思いこみが激しく, そういう先入観で江戸時代の文化をゆがめて見ていると 思われるレポートがかなりあります.
西洋中心主義へのこだわりを捨てて, 日本の歴史を謙虚に理解することが望まれます.

× 関孝和の業績で現代数学に役立ってるものは行列式だけである
とんでもない間違いです. 授業のテーマが行列式に限られてることから憶測した早とちりでしょう. 彼の業績のうち行列式以外のものは「数学の世界」の 授業で採り上げるには難しすぎるから, 行列式だけを教えてるのです.
ベルヌイの数, ニュートンの補間公式, ニュートンの解法 (逐次近似法), エイトケンの補間法などなどは西洋人の名で呼ばれてるけれども 関孝和が最初の発見者であるとわかっていて, これらの概念は 現代数学でおおいに役立ってます.

× 関孝和が行列を発見した.
関孝和の発見したのは行列でなくて行列式です. のちの時代の和算にさえ, 行列の概念は見られません. 行列と行列式とを混同してませんか. もう一度シラバスをよく見て下さい.

× 関孝和が中心として研究していたのは立体幾何学である
これもまったく見当違いです. どうしてこんな誤解が起きるのでしょう. 関孝和の著書に立体幾何の例題がいくつもありますけれど, そのことから研究の中心が立体幾何だと憶測したのでしょうか. 関孝和がどんなにさまざまな分野を研究していたか, よく調べてみて下さい.

× 関孝和は和算中興の祖と呼ばれる
どこかにそんなことが書いてあるのでしょうか? 関孝和の業績をことさら低く評価しようとする意図があるのでしょうか? 関孝和以前の和算をいくら高く評価したとしても, 関が「中興の祖」であると みるのは無理でしょう. 演段術をはじめ関孝和の独創的な発見の数々によって 関孝和以後の和算はそれ以前とくらべていちじるしく発展しています.

× 和算は実用を無視して趣味に偏っている
× 和算は実用ばかりで理論を考えてない
レポートにどちらの意見も見られるのですが, 論理的に考えてみれば, 少なくとも一方は間違ってますね. 実はどちらも和算を正しく理解した考えではありません.
算額奉納などに見られる趣味としての面と, 暦, 天文, 測量などへの応用の面と, その両方を見ないと和算の姿は正しく見えてきません.
和算はしだいに趣味性を高めていきますけれども, 例えば関孝和の研究の多くは暦学のための数学です.
また, 西洋の数学とくらべると和算では理論を重視していないけれども, 決して和算に理論がなかったわけではありません.

× 関孝和は文字係数方程式の解法「天元術」に改良を加えて, 算木で計算する独自の代数学を創始した
あべこべです. 中国から伝わった「天元術」は算木で計算する解法です. 算木では文字係数方程式が扱えません. 関孝和は代数式を書くこと (傍書法) を創案し, 算木でなく筆算で解く代数学「演段術」を始めました. これによって初めて文字係数方程式が解けるようになったのです.

× 関孝和の「孝和」はペンネームである
「孝和」は本名です. 「新助」という通称もあったことから, そちらが本名で「孝和」がペンネームだと誤解したのでしょうか.
なお, 明治以来「こうわ」と音読みにすることがあり, 群馬県の「上毛かるた」でも「せき・こうわ」としてますが, 本来は訓読みの「たかかず」です.

× 関孝和の墓は牛込弁天町の浮輪寺にある
浮輪寺でなく浄輪寺です. 現在の東京都新宿区弁天町98, 外苑東通りを市谷柳町交差点から北へ400mほど行って東側, 清和病院の北隣です.

× 日本の数学界には自閉症的傾向がある
数学が好きか嫌いか, それはあなたの自由です. しかし, 嫌いだからといって, 日本中の数学者に八つ当たりするのはやめましょう. また, こういう比喩に「自閉症」というのは, 自閉症という病気に悩む人々への配慮を欠くことだと思います.
日本でどんな数学研究が行われてるかよく知った上での批判ならよいのですが, 日本における数学研究やそれに対する世界からの評価などを まったく調べもせず, 「○○の落書き」レベルの悪口書いても あなた自身の品位が傷つくだけです.
くだらない罵詈雑言 (ばりぞうごん) はやめて, 自分の勉強の成果を堂々と示して下さい.


その他の注意

よくある誤字
塵却記関考和発徴算法 規距要明算法規短要明算法浮輪寺点鼠術
塵劫記関孝和発微算法 規矩要明算法規矩要明算法浄輪寺点竄術


現代の数学とその応用

計算機の歴史を調べるとき, 文献がいつごろ出たものなのか注意して下さい. 日進月歩の技術ですから, ちょっと古い本に書いてあることは現在と大違いです. 1960年代の技術を現代のことのように書いた時代錯誤なレポートがありました.

× 十進法では0, 1, ..., 9の十個の数だけを使って どんな大きな数字をも書き表せる
「数」と「数字」とがあべこべです. 数字を使って数を書き表すのです.


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