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「HTML教材の有効性に関する研究」デザイン
−弱視者への対応について−

国立特殊教育総合研究所長期研修生
氏間 和仁       
(愛媛県立松山盲学校教諭)


1,はじめに

 今日のインターネットやLANなどのネットワーク環境の発達はめざましい。このような現状の中で、これらの技術を教育にも生かせないだろうかと考えることは自然なことであり、有意義なことである。そこで、今回は、弱視者に対して、ア、WEBコンテンツの記述言語になっているHTMLを用いた教材(以下、HTML教材)を使用することの有効性、イ、HTML教材の表示を自分の最適な読書環境にカスタマイズするツールの試作、ウ、HTML教材の普及に関する取り組み、エ、HTML教材とは表裏の関係にあるVDT作業による害などについてまとめ、HTML教材の有用性について検討したい。
 著者は研究はまったくの素人であり、本稿もデザインの体裁を取っているか心配である。ここでみなさんにご教示をいただき、よりよい研究になるよう努めたい。


2,研究の手順

 以下の項目について取り組みたい。

(1)弱視者に対してHTML教材を使用することの有効性

 HTML教材が弱視者にとって有効であることについては、著者が昨年まとめた。そこでは、以下の点について指摘した。

 そこで、今回は、HTML教材の有効性について、ア、検索時間の短縮、イ、読書環境のカスタマイズという2つのキーワードからデータをとって調べたい。


ア、検索時間短縮について

 検索時間は、ハードコピーと比較してHTML教材の方が短縮できることが想像できる。そこで今回は実験を行う。その詳細については、実験の手続きの項で触れる。

イ、読書環境のカスタマイズについて

 この問題に取り組む前に、先行研究について調べた。弱視者の読書環境についての先行研究は多数であり、かなり充実している。そこで先行研究を調査して以下のことについて整理した。

(ア)文字サイズについて

 文字サイズは、臨界文字サイズという、弱視者にとっての最適文字サイズが存在する。

(イ)行間隔について

 行間隔は、文字サイズの大小に関わらず、多行提示と一行提示とで正読字数が等しくなるような行間隔の条件が存在し、これを境に、行間隔が広くなると多行提示の方が正読字数が増加するという傾向がある。

(ウ)字詰まり効果について

 字詰まりは、臨界文字サイズ以上の文字サイズであればそんなに気にすることはない。

(エ)1行文字数について

 行間隔の広い条件と一行条件での正読字数は、一行の長さの条件によらずほぼ等しい。

(オ)白黒反転

 透光体に白濁があったり、無光彩、白子症、全色盲などの理由で羞明のある人には配色の反転が有効である。

(カ)フォントについて

 san-serif(ゴシック系)が好ましい。

 などである、これらのことから、HTML教材でカスタマイズ出来たら良いパラメーターは、文字サイズ、行間隔、配色の3つである。そこで、何らかの方法でこの3つのパラメータをカスタマイズできる環境を作成し、HTML教材を提供できれば理想であると考えられる。固定するパラメータはフォント(ゴシック体に固定)、文字数(デフォルトのまま)である。


(2)HTML教材の表示を自分の最適な読書環境にカスタマイズするツールの試作

 HTML教材を生徒が読みやすい環境にカスタマイズする方法には大きく分けて、(ア)ブラウザにより設定する方法、(イ)何らかのプログラムにより提示する方法がある。(ア)の方法には、ブラウザ表示の設定をメニューから行う方法とInternet Explorer4.x以上では自分好みのCSSを設定しておく方法がある。(イ)の方法には、新たにブラウザソフトを制作する方法や、CGIなどでサーバー側でHTMLを生成して発信する方法、そして今回著者が取り上げたJavaScript(以下、JS)を用いる方法がある。
 JSを用いるメリットとしては、(ア)CGIサーバーに負担をかけにくい、 (イ)プログラムなどを配布する必要がない、(ウ)コンパイルしないので簡単で、安価に制作が出来る、などが挙げられよう。
 今回は、このJSを用いて、HTML教材提示ツールを作成し、その効果を確かめることにする。


(3)HTML教材の普及に関する取り組み

 HTML教材の普及に関しては、(ア)HTML教材制作ツールの試作、(イ)HTML教材のインターネット公開時の注意事項についてまとめる。

ア、HTML教材制作ツールの試作

 HTML教材を普及させるための、製作用テンプレートや説明書を作る。できれば、何人かの先生に試用していただき感想を得たい。

イ、HTML教材のインターネット公開時の注意事項

 インターネットにHTML教材を載せるときの注意事項を、すでにホームページを持っている学校の規約などを中心にまとめる。

(4)HTML教材とは表裏の関係にあるVDT作業による害について

 VDT作業時の害について、文献を調査しまとめる。できれば、弱視者への配慮事項をまとめたい。

(5)実験方法

ア、実験の目的

 実験では、検索速度と、ディスプレイ上に提示された刺激が有効かどうかについて調べる。

イ、実験の手続き

 被験者は、松山盲学校に在籍する弱視生徒20名程度を予定している。実験の様子は8ミリビデオで録画する。またディスプレイの輝度とコントラスト、室内の照度を記録し、ディスプレイの輝度・コントラストについては全実験で同一とする。照度は症状により変えるが、特に明るくて支障のない場合の照度は一定にする。

(ア)読書環境の基礎調査

 MN-ReadJにより、臨界文字サイズなどを調べる。中野氏が開発した計測ソフトを用いることも考えている。

(イ)ハードコピー教材による調査

 環境は、いつも使っている読書方法でハードコピーの調査用紙に取り組んでもらう。
 実験は実験用に作られた、資料により調査する。実験用調査用紙は16ポイントゴシック体(国家試験の拡大版のサイズ)とし、構成は次のようである。

  1. 目次
  2. 1〜10ページ:小学校1年生の国語教科書から100字を抜き出した文章を各ページに書き、各ページの最後に、次の検索課題が「次は、ももたろうを読みなさい」のように書いてある。
  3. 11〜20ページ:小学校2年生の国語教科書から100字を抜き出した文章を各ページに書き、各ページの最後に、次の検索課題が「次は、ももたろうを読みなさい」のように書いてある。
  4. 21〜30ページ:小学校3年生の国語教科書から100字を抜き出した文章を各ページに書き、各ページの最後に、次の検索課題が「次は、ももたろうを読みなさい」のように書いてある。

 初めに、例えば「金太郎を読みなさい」と課題を出す。被検者が金太郎を見つけ発声と同時に計時を開始する。「金太郎」の100文字分を読み終わったら、その下に書かれてある課題を目次に帰って検索し、そのページに飛んで朗読を始める。この課題をそれぞれの学年から3つずつ、全9題(最初の出題は入れない)出題する。

(ウ)HTML教材による調査

 (イ)と同じ物をHTML教材化して、同じ手続きで実験する。

(エ)アンケート

 (イ)(ウ)の使用感やパソコン使用歴、インターネット歴について簡単なアンケートを取る。同時に提示ツールの使用感についても調査する。保健室より眼疾、遠方視力、近見視力、視野などのデータをもらう。

(オ)結果の処理

 (イ)(ウ)の結果から、検索速度と読書速度を抽出する。その結果を以下の項目について検討する。検定方法はt検定を考えている。

(カ)問題点

  1. 誤読したときの対処法をどうするか。
  2. 実験の中で、顎台などを用いて視角などを厳密に管理したほうがよいか、それとも、自由な読書環境にするか。
  3. HTML教材を読むときは、MN-ReadJの結果や計測ソフトの結果から、厳密に視角を管理した方がよいか。
  4. 現在、リンク文字色は白背景では青、黒背景では黄にしているが、これでよいか。

3,おわりに

 今回の研究から、HTML教材の有効性と、提示ツールの有効性が導き出せ、その普及やVDT作業時の注意点までまとめられたら幸いである。
 ご指導よろしくお願いします。