「広がるインターネット」

点字毎日に掲載されたインターネットの特集記事

点字毎日は、点字で刊行されている週刊新聞で、日本でもっとも多くの点字読 者を持つ、歴史のある点字刊行物です。ここでは、その点字毎日の新春特集号 に掲載されたインターネットの特集記事を、記事を編集した点字毎日の岩下さ んの許可を得て転載しています。

視覚障害者がインターネットを利用する方法、利点、問題点、期待などが簡潔 に分かりやすく述べられています。

    インデックス
  1. 広がるインターネット−上
    1. インターネットを始めるには
    2. パソコン通信でインターネットも
    3. 代表的プロバイダー一覧
  2. 広がるインターネット−下
    1. ネットニュースで情報収集
    2. 情報検索はWWWで
    3. OS/2はGUIでもOK
    4. 何のためのインターネット?
このページは、 小田@東京女子大学 が提供しています。コメントは、 電子メール でお願い致します。
Last update 1996.2.26


              (新春特集)
            「広がるインターネット」 (上)

 「世界最大のコンピューターネットワーク」と言われるインターネット。文
字だけでなく絵や音も自由に送れることから、「マルチメディア」と同義語の
ように見なされ、我が国でも行政や企業、研究機関などが情報提供の場として
サービスを開始し、新聞はもちろん、テレビのCMにも「インターネット」と
いう言葉が登場するようになった。このインターネット、世界中の電子データ
の宝庫だけに、特に既にパソコン通信で新聞を読んだり辞典を検索したりメー
ルを交換するなど、オンラインサービスの便利さを享受している視覚障害者に
とっては、晴眼者以上に強力な情報源として期待を抱かずにはいられないメディ
アだろう。しかしその一方で、グラフィカルな情報も少なくないだけに、音声
合成装置や点字ディスプレイを介してテキストベースでアクセスする視覚障害
者には、相性の良いソフトの組み合わせなど特殊なテクニックや工夫も要求さ
れる。そこで、既に仕事や日常生活でインターネットを道具として使いこなし
ているパワーユーザーのリポートを交えながら、視覚障害者にとってのインター
ネット利用の現状と課題を徹底分析し、これからインターネットを始めようと
お考えの皆様の参考にして頂きたいと思う。(本誌・岩下恭士)



          −インターネットを始めるには−

 基本的にインターネットも、オンラインで電子化情報をやりとりするという
意味では、パソコン通信とほとんど変わらない。従ってパソコンとモデム、音
声合成装置か点字ディスプレイなどのハードと、VDMなど視覚障害者用スク
リーンリーダーと、通信ソフトなどがあればとりあえずOK。ただインターネッ
トでは専用回線を使うために、LAN(構内情報通信網)の環境の整った企業
や研究機関などに属していない個人の場合は、まずプロバイダーと呼ばれる接
続代行会社と契約して、回線を借りる必要がある。契約条件は各プロバイダー
によって異なる(nページ参照)ので、自分の月平均利用時間やアクセスポイ
ントの数などを参考に選択するといいだろう。ちなみにBEKKOAME(ベッ
コウアメ)の様に利用料金が年間定額のものは、一見お得なように見えるが、
回線が込み合っていて休日は渋滞、平日でもつながるのは明け方の4時頃といっ
た難点があるので、必ずしもお勧めとは言えない。ここではパソコン通信から
そのままインターネットが利用でき、しかもテキスト中心のため、視覚障害者
にとってよりアクセスが容易な「ASAHIネット」を取り上げてみよう。



         −パソコン通信でインターネットも−

 インターネットは、もともとユニックスワークステーションという複数の端
末で使うことを前提としたネットワーク型コンピューター上で生まれたもので、
多くのユーザーはこのユニックスワークステーションを介してインターネット
を利用している。そのために「ユニックスマシンがなければインターネットは
利用できない」という印象が強く、ユニックス上で動くインターネット用アプ
リケーションソフトが豊富なことも事実だ。

 これに対してASAHIネットは、パソコン通信とインターネット接続がセッ
トになったサービスを提供しており、一つのユーザーIDでパソコン通信を利
用できると同時に、インターネットへのダイアルアップIP接続も可能だ。つ
まりNIFTY−Serve(ニフティ・サーブ)やPC−VANなどと全く
同じ環境でインターネットのサービスを利用できる、一挙両得お手軽ネットと
いうわけだ。その上インターネット上で電子メールやネットニュース、ファイ
ル転送や情報検索はもちろん、目玉商品のWWWも自由自在に使えるので、個
人ユーザーにとってはインターネットにアクセスするための一番の近道と言え
そうだ。以下実際の操作手順を追いながら、同ネットで利用できる主なインター
ネットサービスを紹介していこう。

 まず入会手続きは、パソコン通信をやっている人なら視覚障害者でも簡単に
できるオンラインサインアップをお勧めしたい。画面の指示に従って住所指名、
クレジットカード番号などを登録すると、数日後に郵送でIDとパスワードが
送られてくる。後はパソコン通信と同じ要領でアクセスポイントに電話をかけ
る。

 ASAHIネットにアクセスしたら、トップメニューから5「インターネッ
ト接続」を選択する。すると画面には以下のようなメニューが表示される。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
 1.  インターネットの利用について
  2.  インターネットクラブ
  3.  Anonymous FTPの利用
  4.  TELNETの利用
  5.  WHOISサービスの利用
  6.  NETNEWSサービスの利用
  7.  FINGERサービスの利用
  8.  FINGER用自己紹介の登録
  9.  WWWの利用
  10. ダイアルアップIP接続の申し込み
  11. PPP接続広場
  12. チャレンジ ザ・HTML
  13. ホームページ管理
  0. 「トップニュー」 
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 

この中からさらに、9.WWWを選択すると「ASAHI NET User
s’ Home Page ・・・」に続いて「WWW (WORLD WI
DE WEB)の世界へようこそ!」のメッセージと共に、ASAHIネット
のホームページが表示される。

 WWW(ワールドワイドウェブ)は、インターネット上の情報をリンク(関
連付け)させる記号を付加し、文書と映像や音声を融合したハイパーテキスト
形式で閲覧できるようにしたサービス。世界各地にあるサーバー(電子化され
た情報や資源を蓄積したコンピューター)の間に、WEB(蜘蛛の巣)の様に
張り巡らされており、手元のパソコンから関連情報を持つ世界中のコンピュー
ターを芋づる式に探ることができる。インターネットの最大の魅力は、このW
WWのネットサーフィン(ネットワークをサーフィンするように読み歩くこと)
にあるというユーザーも少なくない。

 WWWのホームページ(初期画面)は、ユーザー自身が自由に作成すること
ができ、通常は文字だけでなく写真やイラストなどグラフィカルな情報が混在
した形で作られることが多い。晴眼者は画面上の項目部分をクリックすればア
クセスできるが、視覚障害者の場合はアクセスが難しい。視覚障害者のインター
ネット利用ではここがネックになる訳だが、ASAHIネットでは独自のブラ
ウザ(アクセスツール)がホームページからテキストだけを取り出し、各項目
に番号を付加してくれるので、視覚障害者も何なくWWWを利用できる。次回
はいよいよ実際にこのWWWから情報を検索するところをご紹介しよう。



         −代表的プロバイダー一覧−

 以下プロバイダー名に続いて「初」は初期費用、「基」は基本料金、「使」
は使用料金(いずれも単位は円)、「電」は電話番号。基本料金の後に(X時
間)とあるものは基本料金でX時間まで、それを越えると使用料金が追加され
るという意味。

           (一般のプロバイダー)

IIJ: 初 30,000 基 2,000 使 25/分 電 03-5276-6240

IBM: 初 2,000 基 2,000(4時間) 使 6/36秒 電 0422-42-8625

C&Cインターネットサービス: 基 2,000(5時間) 使 10/分
                                                電 03-3798-6086

JETON: 初 5,000 使 10/分 電 03-3704-8522

BEKKOAME/Internet: 初年度 30,000、2年目以降2万円でかけ放題
                                        電 03-5610-7900

リムネット: 初 8,000 基 1,800(7.5時間) 使 10/3分 電 03-5489-5655


      (インターネットを利用できるパソコン通信)

ASAHI ネット: 初 3,000 基 1,000(2時間) 使 10/分
                        電 03-3666-2811

People: 使 10 〜 25 / 分(通信速度によって異なる)
                  電 0120-860-864

 *−インターネットを始めるには−の部分で(nページ参照)という箇所が
ありますが、プロバイダー一覧が掲載されるページ番号を入れて下さい。




                (新春特集)
            「広がるインターネット」(下)

           − ネットニュースで情報収集 −

 東京三鷹市にあるマンションの1室。IBM互換機やユニックスワークステー
ションなどのコンピューターに各種のヨーロピアン点字プリンター、まな板の
ように巨大な80マスの点字ディスプレイにFAXやOCR用スキャナーなど、
電子機器が部屋中に溢れ、とても個人の家とは思えない。午前1時をとっくに
回った頃、デモンストレーションが始まった。

 この部屋の主、青松利明さん(25)は、昨春大手コンピューター会社を退
社、現在は付属盲の社会科教諭として教鞭を執る傍ら、国際的な視覚障害者向
けスキーツアー「スキーフォーライト」のコーディネートなど、ボランティア
活動に明け暮れる毎日だ。

 「課外学習で千葉県佐倉市にある国立歴史民族博物館に行くことになって、
ASAHIネットのホームページを探したら、あったんですよ博物館の概要が。
つまり博物館でもらう墨字のパンフレットの内容が事前に読めるという訳です。
ウィンドウズなら画像情報も取れますから、晴眼者に見てもらうこともできま
す。ただ、当たりを付けてやみくもに捜すしかないので効率は悪いんですけど
ね。」そう言いながら青松さんはインターネットへのアクセスを開始した。

 「ピーッ、スウッ、ガリガリガリッ」、パソコン通信でお馴染みのあのイン
トロが出ればまずは接続成功!青松さんの場合は、IBM互換機からMS−D
os上で起動するプロコムプラスという通信ソフトを立ち上げ、ある大学のユ
ニックスワークステーションを介してインターネットに入るというやり方。デ
モではまずネットニュースによる情報収集にチャレンジしてもらった。

 ネットニュースはWWWと同様のインターネットサービスの一つで、パソコ
ン通信の電子掲示板に相当するもの。電子掲示板との違いは、特定のホストコ
ンピューターに情報が蓄積されているのではなく、電子メールのように、投稿
した記事が全てのコンピューターにバケツリレー式に届けられる点だ。インター
ネット上には現在1万4千以上のニュースグループがあると言われるが、その
中にはFJニュースグループなど、日本語で記事を提供しているものも500
グループ以上あるという。

 青松さんはネットニュースの中から、海外旅行の際にフルに活用していると
いう「fj.rec.travel.air」を選択した。そこには格安チケッ
トなど世界中のエアラインに関する情報が溢れていた。また一方的にそれらの
記事を読むだけでなく、もし「東京からロンドンまでの安いチケットはないか?」
などと自分から発信すると、誰かが耳寄りな情報を提供してくれるという。

 障害者に関する情報も見逃せない。「MISC.HANDICAP」を選択
すると、手話についての話題、視覚障害者にとってのGUI対策、障害者に優
しい航空会社など、個人的な体験を中心に世界中のハンディキャップ情報にア
クセスできる。

 「おもしろいのは、記事を提供しているのが当事者や福祉関係者ばかりでは
ないことと、シンガポールや香港、北欧など、必ずしも先進国ばかりではない
ことです」と青松さんは他のメディアとの違いを指摘する。

 ネットニュースはパソコン通信からもNIFTY−Serveの「go i
nternet」、PC−VANの「j yyinews」などのコマンドで
入ることができるので、これらのパソコン通信ユーザーは今すぐにでも利用が
可能だ。

 インターネットについて青松さんは、「アメリカでも大騒ぎしていますが、
実際にはパソコン通信以上に役立つというものでもありません。ユーザーの大
半は電子メールしか使っていませんからね」と冷静に受けとめる。が、その一
方で「視覚障害者にとって情報収集力が増大するのは事実です。新聞や書籍が
読めますし、近い将来録音図書も、てんやく広場のようにオンラインで取り寄
せられる時代が来るでしょう」と大きな期待を寄せている。


           − 情報検索はWWWで −

 JR静岡駅より1つ東寄りの草薙から車で5分。小高い丘の上の煉瓦に包ま
れたヨーロッパ風の建物の中に、静岡県立大国際関係学部助教授・石川准研究
室がある。

 部屋に入るとまず壁にずらりと並んだ社会科学やコンピューター関係の専門
書に圧倒される。室内にはパソコンや点字プリンターなど最新の電子機器が完
備され、2人のアシスタントが電話の応対やスケジュール管理などに忙しく働
いていた。驚いたのは、これらの機器やアシスタントは全て私費で賄っている
ということだ。

 「エクストラのおかげですよ」と石川さんは笑いながらWWW用検索ツール
LYCOS(ライコス)のデモンストレーションに取りかかった。

 石川さんのインターネットアクセスは、ASAHIネットと学内のLANの
電送媒体ETHERNET(イーサネット)からの2方式。イーサネットの場
合は、ネットスケープやモザイクなど、主流になっているGUIのWWW用ブ
ラウザーを用いる代わりに、MS−Dos用のLYNX(リンクス)というW
WWのテキスト部分のみを出力するビュアーを用いることでGUIの問題をク
リアーしている。

 ライコスは俗にサーチエンジンと呼ばれる、WWW上で用いる検索用ツール。
キーワードを入力するだけで世界中のサーバーに蓄積された1100万件を越
えるデータを検索できる巨大なデータベースだ。

 例えば「GPS」と「BLIND」という二つのキーワードを入力する。す
るとGPS(人工衛生を利用した全世界測位システム)を用いた視覚障害者用
ナビゲーションシステムに関する情報を持っている世界中の研究機関や福祉機
器を扱うメーカーが数秒でリストアップされる。

 情報数は全部で96項目。その中から米国のアーケンストーン社を指定すれ
ば、コンピューターは瞬時にサンフランシスコにある同社のサーバーとつなが
り、RNIB(英国盲人援護協会)を指定すれば、今度はロンドンにある同協
会のサーバーにつながる。つまり手元のコンピューターで、世界中のコンピュー
ターに蓄積されたデータを自由に検索できるという訳だ。

 もちろんライコスを使わなくても各サーバーに直接アクセスすることも可能
だ。例えば

 http://www.rnib.org.uk

と入力すれば、1発でロンドンまでひとっ飛びして、まもなくRNIBのホー
ムページが表示される。同ホームページの「Blind Related L
inks」には、世界中の視覚障害関係機関がリンクされているので、ここを
起点にして視覚障害者に関する情報を求めて世界中を飛び回ることができると
いう訳だ。

 「海外の情報を取るなら何といってもインターネットです。そこには政治経
済から市民活動、娯楽も含めてあらゆる活動があります。しかも電子データで
すから点訳しなくてもすぐに読めます。英語が中心という問題はありますが」
と石川さんは視覚障害者にとってのインターネット利用のメリットを挙げる。
また「インターネットは視覚障害者にとって晴眼者以上の可能性を持っていま
す。しかしシステムが純化していくと、そのシステムが想定していない使い方
をする人間を排除しかねない。パソコン通信までもがGUI化が懸念される。
今のうちにユーザー側から存在を主張する必要があります」と警告する。


          − OS/2はGUIでもOK −

 昨年注目を集めたウィンドウズ95。そのIBM版といえるOS/2上で、
視覚障害者が容易にWWWにアクセスできるソフトの開発が進められている。
東京日本橋にある日本アイビーエムのSNSセンターで、そのソフト「スクリー
ン・リーダー」を見せて頂いた。 OS/2はウィンドウズと同様に画面に表
示されるアイコン(絵文字)をマウスでクリックしながら操作するものだが、
同社では、専用キーパッドを用いてカーソルを動かすように、アイコン上を自
由に移動し、音声ガイドとともにキー操作でアイコンにクリックできるソフト
を開発している。

 「視覚障害者だけでなく、肢体不自由の人もマウス操作は難しいんです」と
説明するのは、同センターのスタッフでインターネット上で福祉機器情報のデー
タベース「こころWeb」の構築に携わる関根千佳さん。使うパソコンはもち
ろんDOS/Vマシン。OS/2はウェブエクスプローラーというWWW用ア
クセスツールを持っている。これとスクリーンリーダーを組み合わせることで、
視覚障害者も音声やピンディスプレイでWWWにアクセスできるという訳だ。
しかも日本語に対応している上に、プロトーカーという音声ボードを使うこと
でパソコン内蔵スピーカーから出力することも可能だ。 今春には完成すると
いうこのスクリーン・リーダー。インターネットを利用したい日本の視覚障害
者にとって、最も強力な武器の一つになりそうだ。


         − 何のためのインターネット? −

 三菱総研は、西暦2千年には、我が国のインターネット人口が800万人に
上ると見ている。視覚障害者にとってはまだまだ気軽にインターネットを利用
できる環境は整っていないが、情報障害を克服する有力な手段になり得ること
は間違いなさそうだ。しかし静岡からの帰りの車中、石川さんがポツリと漏ら
した「道具を使うことが目的になり、本当にやりたいことが見えなくなってい
るような気がする」という言葉が妙に心に残った。

 青松利明(あおまつ・としあき)
 石川准 (いしかわ・じゅん)
 関根千佳(せきね・ちか)


コメントは、 小田まで E-mail でお願いします