「視覚を補う共用品 浮き出し文字 の検討 経過報告」

2000年2月26日

共用品推進機構 絵・文字班

萩野 美有紀

 

 

1.開発の発端

萩野が1998年、99年に訪米した際、空港や図書館、地下鉄をはじめ各所で浮き出し文字を使用したサインを多く見かけた。

米国のホテル等では浮き出し文字による室名表示がADA法により定められており、文字の太さ・大きさ・タイプ・掲示位置等の基準がある。またNYのライトハウス本部では触覚による識字率が高い書体について研究がなされており、本部の建物の表示にも生かされていた。

アルファベットは字画も少なく26文字なので認識しやすいと思われる。翻って日本語のうちカタカナ表記は触ってよむことができるのではないかと感じた。

調べてみると日本では米国と同様な浮き出し文字の設置についての基準はなく、またフォントについてゴシックと明朝ではどちらが触読に適しているかといったおおまかな知見はあるもののフォントデザインにまで踏み込んだ検討はなされていないようだ。。

触覚を使う表示は、点字もしくは一部の記号が製品を限定して利用され始めたところである。視覚障害者からは、浮き出し文字は有用であるとの意見を得られた。これは盲学校でも点字以外の文字の形についての教育がなされており、浮き出し文字は、中途視覚障害者だけではなく幅広く共用品として利用される可能性があると思われる。

1999年4月共用品推進機構の絵・文字班のテーマとして浮き出し文字の検討が始まった。

2.目的

視覚障害者と共用できる文字表示の研究・開発

表示類に用いる浮き出し文字の書体(当初はカタカナと数字および画数の少ない漢字に限定)と仕様(浮き出し量、文字の大きさ・太さ、文字間隔など)について推奨品の提案をおこなう。

(書籍やパンフレットのような、文章を読むためのフォントは今回の検討対象ではない。)

3.これまでの経過

●99年4月から7月

資料収集

浮き出し文字の印刷方法はどんな物があるか、サンプル収集。

神奈川大学和気先生に記号の触覚による判別について、ご教授いただいた。

●8月から10月

触読できる最低寸法を割り出すために立体コピーでサンプルを制作。書体による判読性能の違いもあわせて制作。

視覚障害者にモニタリングを行った。モニターの様子はビデオカメラまたは音声テープに記録した。

幼児期に全盲 T.R.さん(オプタコン使用者)

生まれつきの弱視 N.N.さん

成人してから一級の視覚障害者 M.M.さん 

●11月から2000年1月

デジタルフォントメーカに勤務しているフォントデザイナーが班に参加。

文字の太さについての評価を精度の高いものにするために、フォントファミリー(同じ形であるが太さが異なるフォントの系列)によるサンプルを作成した。

前回モニターのうちの2人(オプタコン使用者は触読能力が高すぎる)と班員およびその知人に感想を聞いた。

学習効果も大切な要素なので各自サンプルを持ちかえった。

立体コピーでサンプルを作成しているが、太い文字ほど盛り上がりが大きかったり、文字の形について細やかな再現性がない、触感が悪いなどのマイナス面は当初より予測はされていたが、影響が大きいことが判る。

次の段階として高さのコントロールができる加工(または印刷)によるサンプル制作を検討中

今後

1)より精度の高いサンプルで好結果の書体により単語を読むのに適した字送りを探り出す

2)デザイン形状の特徴の研究・触読用フォントの試作 

3)被験者数の多いモニタリング(年齢、性別等の範囲を広げる)

4)理想的な印字条件の研究とカスタムデザインフォントの検討

判読性能向上についての検討事項

文字の向き(縦書き、横書きの判別、水平軸の理解)

文字の形と判読性について(斜めの交差の程度、文字の特徴付け)

など

[参考資料]

モニターリング概要(1999年7月および9月に実施)

モニター=M.M. N.N. T.R.

フォント高さ=10mmと14mm

書体=じゅん101変形(10mm)のみ,じゅん101,太ゴB101,OSAKA,新ゴ-R,新ゴ-M,

丸ゴシック-M

文字種=カタカナ、濁音、半濁音、数字、漢数字、単語-カタカナ、ひらがな、漢字

コメント

10mmは小さい

14mmがよい(T.R.)

14mmは大きすぎる(M.M.)

点々文字がよいかも(N.N.)

文字の水平、垂直がはっきりわからない。向きがよくわからない。(M.M.)

交差は直行はよくわかるが角度があって交わるとわかりにくい。(M.M.)

細い方が高く感じる(N.N.)

観察(班員による被験者の様子から推測)

文字間は十分必要(高さ14mmで5mm間隔)

文字の形は特徴的な部分が必要。口は□になるとわからない。

判別を高めるための工夫(隙間を大きくするなど)をおこなうと従来の文字との違いを感じてしまう場合あり。文字の線の交叉角度の調整は有効のようだ。

文字は左上からさわる傾向があり、左上でその特徴を感じる

文字が14mmだと全体をさわらず誤読することあり。

学習効果はある。

文字の仕上がり(高さ等)が判読性能に大変影響する。

文字の太さはあまり判読性能に影響なし(ただし、太い文字であると立体コピーの盛り上がりが大きいためかもしれない)

水平(垂直)がわかる工夫が必要(ベースライン?)

多くの文字を読むのは疲れる。

オプタコンを使い馴れているT.R.さんは指の腹で触るのに対して、M.M.さんN.N.さんは指を立て加減で触る。

細い方が高く感じる