点字楽譜に関する資料


加藤俊和@日本ライトハウス 2000/11/17
Date: Fri, 17 Nov 2000 13:19:17 +0900 From: 加藤 俊和 Subject: [jarvi:16149] RE:点字の楽譜(長文です) 日本ライトハウスの加藤です。点字楽譜について、長文です。「点字の楽譜の本」と 「点字の和音表記」の2点について書きました。 坂本美和さんこんにちは。[jarvi:16125] 点字の楽譜を勉強できる本の返信です。 すでに、[jarvi:16129] みその まさみつ さん、[jarvi:16134] 切明さん、 [jarvi:16140] 大石 万里子 さんがお答えになっておられますので、補足となります が、3年前にやはり点字楽譜の学習について問い合わせがあり、[jarvi:16140] (1997.7.8)で私が回答いたしました内容とあまり変わっていないようです。 点字楽譜の解説書として点字版で出版されていますのは、次の7点です。いずれも価 格が異なっている可能性が高く、調べ切れていませんので、それぞれの点字出版所に お問い合わせ下さい。 A.瀬川正雄『点字楽譜解説』(全1巻)、1955 東京点字出版所(0422-48-2221)、1690円(原本290円) B.鳥居篤次郎訳・林繁男編『世界点字楽譜解説』(全5巻)、1972 京都ライトハウス点字出版部(075-462-4579)、10,000円+?(原本6,000円) C.平井正編『点字楽譜解説』(全2巻)、1983 平井点字社(087-861-4897)、7,000円+?(原本1,200円) D.江田礼子著『点字点訳の基礎』(全1巻)、1980 オフィスリエゾン(0774-56-3907) OR 雑草福祉会()?(すみません、調べていませんでした)、 3,200円+?(原本800円) E.足立勤一著『点字楽譜の手引 基礎入門編』(全1巻)、1996 視覚障害者支援総合センター(03-5310-5051)、5,000円(原本2,060円) F.足立勤一著『点字楽譜の手引 声楽・合唱(奏)編』(全1巻)、1996 視覚障害者支援総合センター(03-5310-5051)、5,000円(原本2,060円) G.文部省編『点字楽譜の手引』(全1巻)、1984 日本ライトハウス点字情報技術センター(06-6784-4414)、5,150円(原本2,625円) いろいろ評価はありますが、私としては次の順で推奨しています。 Gは、盲学校の音楽教科書および音楽教師用に編集され、高等部までの記号はほぼ掲 載されています。私が関わったからではありませんが、現時点では最低限のことが総 合的にまとめられたものといってよいでしょう。「盲学校に赴任された音楽教諭」対 象という性格もあります。 Bは、日本で最も基本となっている、世界盲人福祉協議会編の翻訳に、邦楽を追加し た解説書です。深く学ぶには最適ですが、高度な内容であり、点字楽譜の動向も知っ た上で読む必要があります。墨字は絶版です。 Cは、和音が「音符法2」ですので、スタッカートなどの記号が異なっています。現 在では「音符法2」は平井点字社だけです。(後で和音の所でふれます。) Aはちょっと古すぎるうえに、概要説明にとどまっています。 D・E・Fは、点訳ボランティア向けの解説書を点訳したもので、Dは基礎的な楽譜 記号の説明書、E・Fは用例は豊富ですが晴眼者向けを前提の編集なので、点字版は 使いにくいと言ってよいでしょう。 以上はすべて、五線譜の知識がある程度あることを前提にしています。 邦楽についてふれているのは、GとBで、Gが箏曲について、Bが箏曲・三弦の記号 について、となっています。 (みその) > 僕もこの本を使って高校生のときに、点字楽譜を勉強しましたが、 > ただ、これは予め楽譜の知識がある人のための点字楽譜の手引きですね。 > 僕が楽譜自体を勉強したのは、音楽が好きなので、 > 小学校や中学校の教科書を引っぱり出してきて、読みふけっていました。 と みそのさんはおっしゃっていましたが、そのとおりで、五線譜の勉強から始めたい ときは、小学部用の点字教科書の方が順を追って説明していますので分かりやすいと 思います。 ただし、価格が高いので、各学年をそろえるとなるとかなりの金額になってしまいま す。そのときは、価格差補償制度を利用されるのがよいと思います。なお、音楽の教 科書は、文部省著作の教科書ではなく、俗に 107条本と言われている一般図書の教科 書扱いとなっていますので、価格差補償が適用できます。 点字楽譜を点訳するところですが、最も有名なのは大石さんがご紹介された「トニ カ」です。 そのほか、「ブレイルスター点訳友の会」や「点字楽譜グループ 星」などもあるはず ですが、最近の動向は分かりません。でも、大石さんもおっしゃっていましたよう に、いくつかの点字図書館では点字楽譜の点訳グループがありますので、お訊ねにな ればと思います。ただし、邦楽の点訳に関しては、最近はむしろ減ってきているよう です。 次に、和音の表記についてですが、[jarvi:16134] で切明さんが、 >> 「点字楽譜の手引き」という点字本があります。 > 文部省が出していたものでしたっけ?ちっと特殊な書き方を解説したほんですね。 > 実際に楽譜を読むとこの本で解説されている記法は教科書ぐらいにしか使われて > いないですよね。 > 日本では音符法2、外国では音程法が広く用いられていて、この本はどちらでも > ない方式が解説されています。 とおっしゃっていましたので、このことについてふれておきたいと思います。 これも3年前に、[jarvi:03466](1997.7.10)「RE:和音の書き方の動向」で私が回答 しておりましたので、要点のみ自己引用しておきます。 −−−−(引用始まり) [jarvi:03466] RE:和音の書き方の動向 和音の表記の変遷と今後の扱いについて 日本の点字楽譜表記が「和音の扱い」について世界の大勢と異なっていることについ て、コメントをしたいと存じます。 (以下、少々長くなってしまいまい、やや専門的な言葉も含むことをお許し下さい。 また、私は現在、日本点字委員会の点字楽譜担当委員ですが、この意見が日点委の意 見というわけではありませんので念のため申し添えます。) <歴史的経過> 1955年頃までは、「音程法」のみを使用していました。 1954年に開催されたWCWB(世界盲人福祉協議会)の大会の折に持たれた点字楽 譜の国際会議で、新たな点字楽譜和音表記法として、イギリスのS.ローガン氏に よって「音符法」が提唱されました。 その2年後の1956年に、H.V.スパナー氏が編集され、WCWBから出版された、 「Rivised International Manual of Braille Music Notation 1956」 (『世界点字楽譜解説』の原本)では、「音符法」についての記載は、「付録」の部 分に扱われました。 一方、『世界点字楽譜解説』の翻訳出版を事実上担当された林繁男氏は、同書の中で 次のように述べられています。  「なお、この方法は目下各国において研究中であり、いずれ正式なものとして   公認されることとなろう。本書においてはこの方法が最も新しい構想と、   理解しやすい組織からなる和音記載法であることを認め、本章の最後に、   これを紹介することにする。」 として、「第6章 和音の記載法」の中で、音程法、部分け内分け法、ステム法と並 列に(対等に)扱われました。 (中略) したがって、1960年以降に発行された盲学校用点字音楽教科書の編集者は、点字楽 譜について本格的に翻訳編纂された同書の点字版の影響を受けて、世界がその方向に 進んでいるものとみなしました。 一方では、「音符法」は初心者に特に分かりやすい面も持っているので、教育に適し ていると判断され、盲学校教育の中に全面的に採用されました。 唯一の点字楽譜専門出版所である平井点字社では、音符法が全面採用になりそうなこ とから、音符法をより徹底させた「音符法2」という記号体系に早くから全面的に切 り替えられ、同社のみがこの方法を採用しています。 (細々とした点字楽譜の出版では、原板を20年間も使わねばならないので、適宜見通 しをつけて対応するしかない、と平井さんはよく語っていました。) これが日本における盲学校教育での音符法導入の経緯であり、盲学校では「音符法 1」が中心に、一般ではさらに「音程法」と「音符法2」が加わり、三つの和音記載 法が混在するようになりました。 しかし、音楽関係者の多くは、外国から輸入する点字楽譜がすべて音程法であり、音 符法による楽譜がまったく出てこないようであることはつかんでいました。専門的に 音楽の道に進む場合は、音程法もマスターしていないと実際問題として困ることが多 くあり、並行して音程法も教えられていました。(特に和声的な曲や楽器には向いて います。) でも、各国でまったく検討もされていなかったことは、1992年の国際会議のときに はじめて明確に分かった、といってよいと思います。 なお、私は1981年から盲学校用点字教科書の編集に関わるようになりましたが、そ のときの版から、音楽教科書の楽譜のうちピアノ伴奏譜については、専門的分野に進 んだ人が読むことが多いので、音程法で表現するようにしました。また、解説書の 『点字楽譜の基礎』では音符法の説明だけであり、足立氏の『手引』でも音程法につ いては記号表が載っているだけですが、私が編集に関わり、1884年に発行された文 部省編『点字楽譜の手引』では、音程法についても説明を加えました。 “点字楽譜においては世界から忘れられていた日本”に、「点字楽譜統一国際会議」 の開催案内が届き、1992年2月の会議には私が代表して参加いたしました。そのと きのことは、「点字毎日 1992年4月5日(3585)号」に報告しております。 (点字毎日の一部引用開始)------------------------------------------- 「海外リポート」   国際点字楽譜会議に参加して 日本ライトハウス点字情報技術センター 加藤俊和 (略) ・・・ 林繁男氏らはこれを元に、努力を重ねて「世界点字楽譜解説」を出版され、こ れが日本における点字楽譜の標準となって現在に至っている。ところが今回参加して みると、スパナー氏の解説書は一つの意見にすぎなかったと言うのである。そして会 議では基本的な音符や休符まで含めて、 250以上の記号について賛成・反対を議決し ていったのである。ほとんどの記号はスパナー解説書と変わってはいないが、一部異 なり、多くの記号が追加され、承認された。  (中略) そして、私にいくつか質問があったのは、日本でなぜ和音の表記に公認もされていな い音符法を用いているのかという点であった。1954年のパリ会議で提案され、優れ た方法として定着すると当時は思われたからこそ日本にも紹介されたのであるが、結 局認められていないという情報がその後入って来なかったことが、このような結果を 招いた原因といえよう。 もちろん、音符法は、初心者には悪い方法ではない。しかし全ての国が採用している 音程法に学習途中から切り換えることは、もっと大きいマイナスではないかというの である。私は会議の後半で30分間の発表の機会を得た時に、早稲田大学等でのコン ピュータ楽譜点訳・墨訳システムの説明とともに、日本の点字楽譜の実状を、歴史的 な経過とともに述べて理解を求めた。 しかし、今後点字楽譜データが国際的にリストアップされることも会議で確認されて いるので、その利用が活発になっていくと、音符法が盲学校高等部まで使用されてい る日本の現状は、私たち自身にとってもマイナスの面が多くあると言わざるを得な い。これから十分な検討が必要であろう。  (以下略) (点字毎日の引用終わり)---------------------([jarvi:03466]引用終わり) なお、この会議を踏まえて、数回の小委員会で詳細検討されたあと、『新国際点字楽 譜記号解説』(英語版)が発刊されています。この翻訳については、ボランティアの 方にお願いして進めてはいるのですが、私のせいで申し訳ないのですが、止まったま まになっております。日本の和音の表記の変遷の経緯は以上のとおりです。 現状は、教育の中で音符法がしっかりと根付いていますので、急速に変えるのはよく ないと思います。状況を見ながら、対応方法を検討していくことになるでしょう。 ただ、専門家を目指す場合は音符法では世界に通用しないので苦しいと思います。 音程法に十分に慣れる必要があるでしょう。 ページの最初に戻る
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