短時間視覚刺激提示における利用可能な情報 Geoge Sperling g001(河井)一度の短時間提示でどれくらいのものが見られるのであろうか?こ の問題は重要な問題である.なぜなら,我々が通常の状態でものを見るという ことは短時間の刺激提示の連続と似通ったものであるからだ.例えば,Edmann とDodge(1898)によると,眼は瞬時のサッケード眼球運動間の短い停留時間で のみ情報を獲得している.しかし一度の短時間提示で何が見えるのかという問 題が未解決である.問題の難しさは,瞬間提示の被験者に何が見えたかを述べ るように指示するだけでは不適当であるという事である.多数の文字で構成さ れる複雑な刺激がタキストスコープで提示されたら,観察者は不思議と後で覚 えているよりもたくさんのものが見えたという.明確で単純な質問「何が見え たか」は,被験者には何を覚えているか,何を忘れたかの両者を報告すること を求められているのである. g002(星野)思い出すことが出来るよりも,より見えているという主張は,2 つ のことを示している. 1 つ目は,記憶の限界,つまり(記憶)報告における 限界を示している.事実,瞬間刺激での直後報告においてそのような記憶項目 数の制限が一般に観察されてきた.それは,注意と理解と即時記憶の範囲と呼 ばれている(cf. Miller, 1956b).2つ目は,思い出すことより見えてること は,おそらく,暫くした後で刺激が報告されるよりも,その間より多くの情報 が入手可能であることを示している.入手可能な情報についてのよく考えると いうことは,情報が 1 時間利用可能(1 時間借りられた本のように)なのか, あるいは,情報がほんの少しの間利用手可能(一秒の数分の 1 程度瞬間提示 される刺激)であるか否かということとよく似ている.どちらのケースにおい ても,制限された時間では,報告されるるりもより多くの情報が利用可能であ ることは,ほぼ確実である.最初に,この 2 つの事例において情報が視覚に とって利用可能であることもまた事実である. g003(田代)短時間の刺激提示後に利用可能となる情報を決定する場合,観察 者の記憶容量の問題を避けるために,観察者はその記憶の範囲を超える報告を するよう要求されてはならないということは明らかである.刺激中の文字数が, 観察者の記憶範囲を超えてしまえば,観察者は全ての文字の全体を報告を示す ことができない.それゆえ,観察者は,刺激内容の中の一部分のみを報告する よう求められねばならない.もちろん,利用可能な情報の部分報告は,通常の 学校の教室での試験により,そして,利用可能な情報のサンプリングにより要 求されるもののようでなければならない. g004(沼田)実験者は,簡易なテストでも,生徒の知識についておおよその判 定を下すことが出来る.テストの長さというものは,生徒がテストの質問項目 について事前に知らされていないことほど重要ではない.同様に,観察者は複 雑な視覚刺激が瞬間呈示されたときに見えたことを「テスト」されるかも知れ ない.そのようなテストは部分報告のみを要求する.そして,刺激のどの部分 を報告するのかについて,具体的な教示を受けるのは刺激の終了後だけである. 各々の試行で,教示は刺激の特定の部分を報告することを要求するが,それは 全ての刺激をカヴァーする,あらゆる可能な教示の中からランダムに選ばれる. 質問(サンプリング)手順を何回も繰り返すことで,様々な刺激の各部分におけ る,観察者の成績から多くの異なるサンプルを手に入れることが出来る.その ようにして得られたデータによって,観察者の報告を平均的試行として引き出 される,利用可能な全情報の推定値を明らかにしてくれる. g005(浅川) 教示が与えられる時間によって,利用可能な情報がサンプリング される時間が決まる.適切なプログラムによって,刺激提示の前,最中,後な ど,教示はいかなる時刻でも与えることができる.そのような実験手続きによっ て刺激終了後即時の利用可能な情報ばかりでなく,教示時刻での利用可能な情 報量に関する連続関数が得られるだろう. g006(佐久間)観察者に対して部分報告を要求する多くの実験が試みられてき ている.部分報告とは,すなわち,刺激の一つの側面,あるいは一つの場所の みを報告する方法である.しかし先行(訳注:研究)の実験は,教示がランダム に選ばれておらず,可能な教示はシステマティックに刺激全体をカバーしては いないことがしばしばだった.検査やサンプリングといった概念は適用されな かった.それゆえ,それは驚くことではなかった.それゆえ,複雑な刺激の短 時間提示後に観察者が利用可能な情報全体の推定値は得られていない.さらに, 一般に,教示を提示する正確な時刻をコントロールすることを可能にするよう な(訳注:プログラムの)コード化はなされて来なかった.従って,利用可能な 情報の時間推移は定量的に研究されて来なかった.正確なデータが無いので, 被験者にとって利用可能な情報は,刺激の物理的な提示時間と正確に対応する と,しばしば仮定されてきた.Wundt(1899)はこの問題を理解しており,極端 に短い刺激提示では,刺激提示時間と正確に対応する情報が利用可能であると いうことは馬鹿げている,ということを論じたが,彼は利用可能な情報につい て測定しなかった. g007(半田)以下の実験は瞬間刺激提示後に観察者が利用可能となる情報を定 量的に研究するために計画された.文字刺激が選ばれるのは各項目(訳注:一 文字のこと)ごとに比較的多くの情報を含んでおり,過去に多数の研究者が用 いてきたものであるからだ.最初の二つの実験は本質的には統制実験である. これらの実験は,文字の直接記憶(immediate-memory)が刺激のパラメータと は無関係であることを確認するために試みられる,すなわち各文字はそれぞれ 意味ある特徴を持っているということを確認するために.第三実験では,刺激 が消えた直後に覚えている文字の数が上に述べたような手順でサンプリングす ることによって(部分報告法と呼ぶ)決定される.第四実験では,時間ととも に覚えている情報が減衰していくことを調べる.第五実験では,幾つかの刺激 提示パラメータが調べられる.第六実験によって,多量な利用可能な情報を示 すことに失敗するある手法を調べる.第七実験では,歴史的に重要な変数であ る報告の順番を取扱う. g008(伊藤)実験装置:実験は Gerbrand 社のタキストスコープを用いた.こ れは,二つの鏡のタキストスコープ(Dodge, 1907b)であり,機械式のタイマー がついている.両眼で観察し,約 24 インチ離れている.実験中,ぼんやりと 照らされた注視側面が絶えず提示されていた. g009(河井) Gerbrand 社のタキストスコープの光源は 4 ワットであった.2 つのこのようなランプがそれぞれの場所を並行に照らしていた.光の操作はマ イクロスイッチによって制御され,電流に直接比例するような状態のランプの 光であった.しかし,ランプをコーティングするために使われた蛍光体によっ て電流が止まった後もいくらか光を放ち続けた.ランプのこの残光は 2 つの 部分からなる指数関数的減衰に従った.一つは青い成分で,エネルギーの約 40 パーセントを占めるが,マイクロ秒のほんの何分の1かの小さな時定数に 従っていた.二つ目の成分の減衰の時定数は,黄色の要素で,検査で使われた ランプでは 15 マイクロ秒であった.図 1 は 50 ミリ秒の光強度の線形グラ フである.50 ミリ秒の提示時間は全ての実験で用いられた.予備実験では刺 激提示時間は重要なパラメータではなかった.50 ミリ秒の刺激提示時間はそ の間に眼球運動がほとんど起きないほど十分に短く,そしてそれは十分に正確 な精度となるようにセットされた. g010(星野) 刺激材料:この実験で使われている刺激は,22インチ離れたとこ ろから見える 5×8 で書かれたカードである.書かれた文字は Leroy の 5 番 のペンで書かれ,0.45 インチの高さの大文字で示されている.被験者が刺激 配列を単語として解釈する可能性をできるだけ小さくするために,21字の子音 字のみが用いられた.少数のカードでは Y の文字は省略された.全体として 500 以上の異なる刺激カードが使用された. g011(浅川) 刺激材料の学習は被験者,実験者ともほとんど起きなかった.学 習が起こったのは極めて衝撃的な文字の組合せだけであった.訓練試行のとき に用いた刺激を除いて,被験者は同一セッションにおいて,任意の刺激の同じ 部分を 2, 3 回以上報告することは無かった. g012(沼田)図 2 は典型的な文字の配列を描いたものである.これらの配列 はいくつかのカテゴリーに分けられるだろう.(a)3,4,5,6 または 7 文字の 1 線上に普通に配置された刺激.(b) 6 文字が 1 線上に間隔を近づけて配置さ れた刺激.(c)各列 3 文字の 2 列(3/3)または各列 4 文字の 2 列(4/4)の刺 激.(d)各列 3 文字の 3 列(3/3/3)の刺激.刺激の情報はビット数で計算され るた.より複雑な刺激は,26.4ビット(6文字, 6 間隔無し,3/3),35.1ビット (4/4),39.5ビット(3/3/3)であった. g014(佐久間)被験者:実験の性質上,訓練された少人数の被験者を使ったほ うが,訓練されていない大人数の被験者を利用するより経済的であった.5 人 のうち 4 人の被験者が学生雇用サービスを通じて獲得されたが,5 番目の被 験者(RNS)は実験に興味をもつ教員であった.各被験者に対して通常 12 セッ ションが定期的に組まれ,それは 1 週間に 3 回と計画された. g015(半田)教示と訓練試行:被験者は凝視点の十字形にはっきりと焦点を合 わせられるまで見るように教示された.それから被験者はボタンを押すように と教示され,0.5 秒後に刺激が提示された.この手続きによって,刺激提示に 先行するおおよその暗順応の行動基準,すなわち,ぼんやりと照らされた凝視 点の十字形に焦点を合わせる能力,が構成された. g016(伊藤)反応は特別に用意された反応グリッド上に記録された.各刺激に 特有の反応グリッドがあてられた.その反応グリッドはタキストスコープのす ぐ下の,テーブルの上におかれた.部屋の明るさは何か書くには十分だった. 被験者は反応グリッド上の要求されたマスすべてを埋めるよう指示された.ま た,不確かになったのはいつかというのを考えておくように指示された.被験 者は連続した文字例えば X で枡を満たすことは許されず,「違う文字」を推 測することが求められた.反応の後,被験者はその前の反応を記した紙をカバー の下の前方へ滑らせ,十分に見えるところに次の反応グリッドの部分を出して おく. g017(河井) 5 から 20 試行が同一条件でグループ化された.刺激のタイプの 条件が変化するときにはいつでも,被験者は新しい状態の刺激 2, 3 回のサン プル提示が与えられた.一連の試行中,被験者は自己の反応の進度を決めた. 被験者は(ND を除いて)は早い進度を好んだ.いくつかの条件では,制限され た進度が実験者によってセットされた.一分間に 3 から 4 刺激の進度であっ た. g018(星野) 最初の 4 つと最後の 2 セッションは,単純な課題で始まり,か つ,また,終わった.それは,3, 4, 5, 6 文字の刺激全ての文字における報 告であった.この手続きは,一連の実験の間の,これらの課題において評価に 値する学習効果があるかどうか,また,個々のセッションの中で正確な報告の 減少(疲労)があるかどうか,を確かめるためであった.2つ目のセッション の後,成績の改善はほとんど認められなかった.この観察は,先行研究の報告 と一致している(Whipple, 1914).始まりと終わりのセッションの間でほと んど違いはなかった. g019(田代) 結果の得点化と表:全ての被験者の報告は,刺激の中の文字と一 致する報告の中の文字総数と,正しい位置で報告された文字数との両者で得点 化した.いずれの場合も他方の影響を受けずに得点化できる実験手続きではな かったので,二つめの得点化方法,すなわち,正しい位置で報告された文字数 の結果を表にした.考察するこの得点化方法は,位置を考慮しないで得点化す るよりも被験者がより類推しにくいものである.類推することによる最大限の 補正は4/4/4 (12 文字)に対し,約 0.4 文字であり --- 他の全て刺激材料よ りもかなり少ないので ---- データの処理いにおいてはそのような補正はしな い.概してデータは 0.1 文字より正確には表化されなかった. g020(沼田)1 回目と2 回目のセッションについてのデータは,後のセッショ ンで試行された作業の被験者の平均成績よりもそれらが下回る場合には,使わ れなかった.このようなことが見出されたのは,何人かの被験者の 5 文字ま たは 8 文字(4/4)の報告だった.同様の基準が,後のセッションでの成績の場 合に適用された.このような場合,後のセッションで被験者の平均から 0.5 文字以上のときには,最初の”トレーニング”セッションの結果は全体の表作 成には含まれていない. 実験一:即時記憶(訳注:全体報告) g021(浅川) 被験者が瞬間提示されたすべての文字の完全(全体)報告を求めら れた場合,すべての文字を報告できないだろう.被験者が正確に報告する平均 文字数は,通常 "即時記憶範囲" あるいは "当該の観察条件化で特定の刺激材 料の理解" と呼ばれる.即時記憶範囲(Miller, 1956a)というような表現は, 刺激条件が変化しても変わらないと言うことを含意している.本実験において は,即時記憶の範囲が,文字数や空間配置,刺激カードの数とどの程度独立し ているかを決定すること目指す.この独立性が示されたのであれば,"特定の 刺激材料についての" という文言は本実験で用いられた場合,即時記憶の範囲 における用語(訳注:の用い方)から削除しても良いだろう. g022(浅川) 手続き.被験者は刺激の中の全ての文字を報告するよう,そして 不確かな場合には類推して答えるようにに教示された.12 種類の全ての刺激 が用いられた.各被験者に各種類の刺激が最低 15 試行施行された.予備実験 で最高の成績が修められた 3/3 (6 文字)の刺激が最低 50 試行が各被験者に 与えられた.実験の最後には必ず,全ての刺激の種類についての即時記憶のテ ストが実施された. g023(半田)結果:図 3 の下の曲線は,それぞれの刺激材料で被験者が正確に 報告した文文字数を表している.もっとも顕著な結果というのは,即時記憶 (訳注:の範囲,正確に報告された文字数)は,用いられた刺激の種類によらず 各被験者で一定であることである.個々の被験者の即時記憶の範囲は,JC の 約 3.8 から,NJ の約 5.2 であり,全ての被験者の平均即時記憶範囲は 4.3 文字であった.(上の曲線については後に説明をする) g024(伊藤)図 3 の個々の直接記憶曲線の特性となっているその(訳注:成績 の)一致は,すべての被験者の平均的な曲線においても表れていた.例えば,3 種類のすべての刺激が使われていた各々 6 文字,すなわち,一行に通常の間 隔で並べられた 6 文字,間隔を詰めた 6 文字,3/3 で並べられた 6 文字(図 2)である.全ての被験者のデータをプールすると,3 種類の得点はは実質的に 同じであった.その範囲は 4.1 〜 4.3 文字であった.同様の一致は 8 文字 の刺激においても保たれていた.相異なる二種類の 8 文字刺激 4/4,4/4 L&N, に対して正しく報告された平均文字数はほぼ同じで 4.4,4.3 文字であった. g025(河井) ほとんどの被験者は文字と数字の両方を含んだ刺激は,文字だけ の刺激よりも難しいと感じた.それにもかかわらず,NJ のみが(訳注:文字と 数字との)ミックスされた刺激材料に対して明らかな(訳注:成績の)低下を示 した. g026(星野) 結論は,ある一人の被験者を含む,刺激の全体報告の平均正解文 字数は,(a)の刺激文字数よりほとんど同じかやや少ない,(b)即時記憶の 時間は一定,---すなわち即時記憶の範囲--- であり各被験者ごとに異なるも のであった.それゆえ,即時記憶という用語の使用は,(訳注:本実験の)学習 材料では正当化される.この正確に報告できる文字数の制限は,各被験者に特 徴的なものであるが,相対的には本研究の 5 名の被験者で類似している. 実験 2 :刺激提示時間 g027(田代)実験 1 の結果は,刺激材料の如何にかかわらず,被験者は刺激 提示につき,平均して約 4.5 項目以上は報告できなかったことを示している. この限界が短い刺激提示時間(0.05秒)に特有のものであるか否かを決定する ために刺激提示時間を変化させる必要がある. g028(沼田)手続き.実験 1 のように,被験者は刺激の全ての文字について 報告するよう教示を受けた.刺激は 6 文字 (3/3) のカードであった.NJ は 実験 1 で 5 以上の正しい文字を報告することができたので,彼が検出可能な 報告の正確さを可能な限り増加させるために,4/4 の刺激を使用した.被験者 は,前述通り,.015, .050, .150, (.200),.500 秒の 4 つの条件で,各々10 試行行った.後のセッションでは .015 秒の提示が実験 5 の統制群として遂 行された.これらの試行は上記のデータとともに平均された. g029(浅川) 結果と考察.図 4 は正確に報告された文字数を刺激提示時間の関 数として表してある.刺激提示時間は全ての範囲に渡って被験者が正確に復唱 できる文字数を決定するための重要なパラメータではないと言うのが主な結果 である.個々の結果であれ,全体としてであれ,刺激提示時間が 0.015 から 0.5 秒まで変化させられても被験者は系統だった変化を示していない.この手 の刺激提示方法では 0.25 秒以上の条件(刺激提示前後が暗い)では報告される 文字数の範囲は不変であることが知られている(Suhumann, 1904). g030(浅川) 実験 3 実験 1 と 2 とでは各被験者の普遍的な特徴としての即時記憶の範囲を示した. 実験 3 では,被験者が制限された即時記憶報告法において示すことができる 以上の情報を利用可能であるかどうかを決めるために,先に説明した知覚状況 を精査するという原則が適用された. 被験者は以前と同様に刺激が提示されたが,被験者は部分報告だけをするよう に求められた.この報告法における文字長は,被験者の即時記憶範囲以内に入 るよう,4 文字以下であった.提示された刺激のどの行を報告するかを指示す る教示は単音の形で与えられた.この教示音は視覚提示後に与えられた.被験 者は,いずれの行を報告すべきかを,その音を聞くまでわからなかった.それ ゆえ,被験者が視覚刺激提示終了後に利用可能な情報を取り出す方法となる. 手続き:最初に,刺激材料は 3/3 と 4/4 の二行であった.被験者は,視覚刺 激の提示終了とほとんど同時に音が提示されるという教示を受けた,音は高音 (2500 cps)か低音(250 cps)のいずれかであった.高音の場合には刺激の上の 行のみを,低音であれば下の行のみを書くことが求められた.それから被験者 は 3/3 文字のサンプルカードを見せられ高音と低音を何度か聴かされた.被 験者は固視点を凝視し,どちらの音にも等分に準備するよう求められた.音は ランダム系列が用いられたので被験者はいずれの音かを類推することは不可能 であった. 音の提示時間はおよそ 0.5 秒であった.音刺激のオンセットは視覚刺激のオ フを制御している同じマイクロスイッチで制御され,オーディオオシレータか らスピーカに接続されていた.音刺激の強度は,高音(低音)が「大きいが不 快ではない」ように調整された. 最初の二セッション,各被験者は 3/3, 4/4 からなる 30 回の訓練試行を受け た.その後のセッションでは 10 回以上からなるテスト試行を受けた.その後, 3/3/3, 4/4/4 からなる刺激の中央の行に対応する三番目の音が導入された. 教示と手続きは本質的に以前の実験と同じであった. 各セッションにおいて,各音は等頻度ではなかった.セッションを合計すると 被験者は高音,中音,低音の各頻度が等しくなるようにバランスが取れるよう になっていた(訳注:Gambler's fallacy をふせぐためです).被験者が誤った 行を書いてしまうように刺激音を「誤解」していた場合は,正しい行を思い出 すように求められた.その音によって示された行に対応する文字のみを取り扱 うこととした. データの処理:本節で言及する実験では,被験者は刺激全体を報告するように は求められず,対応する行のみを報告するように求められた.もっとも単純な データ処理は正解率をプロットすることである.実際,これ以降のすべての比 較にこの方法が用いられる.問題は,同一の刺激に対する部分報告法と即時記 憶法によるデータの比較を可能にする,利にかなった測度を見つけ出すことで ある.正解率という測度は即時記憶実験の結果を縮約して記述してはいない. 実験 1 では被験者は,文字列の子音の比率ではなく,子音の数を報告するこ とが示された.正しく報告された文字の数という測度は部分報告法によるデー タには不適切である,なぜなら被験者が報告すべき文字の数が実験者によって せいぜい 3 つか 4 つに制限されていたからである.部分報告法によるデータ を適切に扱う理にかなったデータ処理方法は被験者の利用可能な文字のランダ ムサンプルと見なすことである.部分報告データはそれぞれ,被験者が報告可 能な文字数のランダムサンプルを表している.例えば,被験者が 9 文字うち から 3 つ報告して 90% 正解した場合,教示音が与えられる部分報告の場合, 9 文字のうち 90%,およそ 8 文字,を保持していたと言うことになる. 報告可能な文字数を計算するために,部分報告法において正解した平均文字数 に等確率数を積算こととした.もし二行二音の場合,積算数は 2.0 であった. もし 3 なら 3.0 である.先と同様,正しい場所にあった正答文字数だけが考 慮された. 結果 部分報告法での被験者の応答が最終的に安定するのは相対的に早かった. (最初のセッションの)30 試行後における全被験者の平均は 3/3 条件では 4.5 であった.二日目の 30 試行の平均は5.1であった.三日目の全被験者の 平均は 6 個のうち 5.6 であった.この上昇は,ただ一人の被験者 ND の成績 上昇によるもの(2.9 から 5.8 へ)であった.3/3/3 刺激の場合,すべての 被験者は初日の最初の 40 試行の練習で安定した状態になった.今回の部分報 告法において,被験者は早くに安定状態に達したことから今回の部分報告法を 習得するためには十分な経験であったと説明できる.最初の 20 試行で 7.7 文字が報告可能であった被験者 NJ はこの初期の成績を向上させるために 150 回費しても不可能であった. 刺激に含まれる文字数の関数としての報告可能な文字数が,図 3 中の上の曲 線で示されている.全被験者の全刺激において部分報告法から計算された利用 可能な情報は即時報告法におけるそれよりも多かった.さらに二つの曲線の乖 離から,もしより複雑な刺激が用いられたのなら利用可能な情報の量は増大し たであろうと思われる. 上の推定量は被験者が部分報告法において報告可能な文字数の下限である.上 限は部分報告法を用いては得ることができない.ほんの少し条件を変えただけ で成績が向上することは,絶えず議論されていることであるからである(訳注, どう変えればどうなるか考えてみよう!アルファベット以外の刺激を使うとど うなるのと予想できるか?).しかし,報告可能な情報の下限を測定している 場合でさえ,即時報告法の記憶容量の 2 倍大きいのである.4/4/4 (12 個の 文字と数字)の即時報告法による記憶容量は 3.9 から 4.7 個まで平均 4.3 個 であった.4/4/4 の刺激が提示された直後,報告可能な文字数は 8.1 (ND) か ら 11.0 (ROR) 平均 9.1 文字であった.この文字数は多くの文字によって表 現される情報量へ変換できるかもしれない.4/4/4(12 個の文字と数字)の場 合,平均 40.6 ビット,範囲は 36.2 から 49.1 (可能な 53.6 ビット中).こ れらの値は一般的な推定量よりはるかに多い.例えば Quastler(1956) による 最近のレビュー論文では「実験的研究ではすべて,人間は短時間の視覚で 25 ビット以下の情報を...集めることができることで一致している」と書かれて いる.実験 3 で得られたデータはこの最大値を凌駕している,しかし,刺激 提示後被験者が報告可能になる情報は,用いられた刺激に含まれている制限さ れた情報によって決定された最大値ではなく「人間の」限界を表している. g031(浅川) 実験4:報告可能な情報の崩壊 パート1:観察方略の発達 実験 3 において被験者は刺激提示終了直後に報告できる以上の情報が利用可 能であることが確立された.この超過(報告できる以上の)情報の運命,すなわ ち「忘却曲線」はまだ知られていない.部分報告法は教示音が提示された時点 での利用可能な情報のサンプリングを可能にする.それゆえ,教示音の遅延時 間の関数として,報告可能な情報の崩壊を対応する報告精度の減衰として反映 させられるだろう. 手続き:先の実験からの主要な変更点は,被験者にどの行を報告すべきかを示 す信号音が,さまざまな時間「遅延なし」より前の刺激終了後まで,与えられ たことである.指示音のオンセットは刺激提示終了直後からの相対時間として, -0.10 秒(刺激提示前),+-0.0, +0.15, +0.30, +0.50, +1.0 秒であった.用い られた刺激は 3/3, 4/4 であった. 被験者は上の条件それぞれについて 5 回以上の連続した試行を受けた.被験 者に正確な時間のオンセットに慣れさせるために,これらの試行の前には,か らなず少なくとも 2 回のサンプル試行が実施された.すなわち,教示音の遅 延時間はランダムではなく固定されていた.この手続きの利点は,(a)被験者 があらかじめ正確な条件に対する準備ができていれば最適な成績が得られるだ ろう(cf. Klemmer, 1957),(b)遅延の変化を最小にすることによって,より高 い刺激提示率が可能になる.一方,教示音をランダムにすると,それぞれ異な る条件で「同じことをする」ことがありうるだろう. 遅延条件の提示系列は上で与えられた(上昇系列)か逆の(下降系列)かのいずれ か一方が用いられた.あるセッション中どの刺激材料が用いられたとしても, 下降系列の次に上昇系列が当たられ,その逆も用いられた.初期トレーニング (実験3)の後に,各被験者はそれぞれの刺激材料について,少なくとも二つの 上昇系列と二つの下降系列の遅延条件が実施された. 結果と考察 被験者 ROR の典型的な行動の発達が図 5a,b,c に示されている. 図 5a は ROR の単一セッション,訓練終了後の最初のセッションを表してい る.上下の曲線は教示音遅延系列の上昇系列,下降系列を表している.矢印は 順番を示している.各点はわずか 5 試行の結果に基づくものだが,曲線はか なり類似しており規則的である.明らかに,ROR の記憶範囲の超過であるほと んどの文字はおよそ 0.25 秒以内に忘却される.これらの文字の急激な忘却は この現象を短期記憶と呼ぶのが適切であり,そして最適な条件以下の場合には 簡単に見逃される事実を説明している.続くセッション(図5b)では下降系列 が最初に与えられた.ここでは順序性が崩壊している.三番目のセッションで は修正点が二つ導入された:(a)各遅延条件での試行数が 8 に増やされた, (b)新しい遅延条件,すなわち,刺激のオンセットの 0.05 秒前に信号音が来 る,が与えられた.曲線は再び規則的になったが,しかし,上昇系列と下降系 列では明らかに異なっている.図 5c で示されるセッションにおいて位置ごと のエラーの分析から,上昇系列ではエラーは刺激の上の行と下の行とで当分に 分けられていたが,下降系列では 3:1 の割合で上の行が選好されていた. ROR の成績は実験状況から示唆される二種類の行動(方略)の観察の点から分 析可能である.彼は訓練に先立って実験者から与えられた教示に従って各行に 当分に注意を払っていたのかもしれない.この場合,エラーは行間で等しく配 分される.あるいは,彼はどちらの教示音が提示されるかを推測し,信号を予 期しようとしていたのかもしれない.この場合は,被験者はひとつの行を報告 することを選好する.もし,信号と被験者の類推が一致すれば被験者は正確に 報告する,そうでなければほとんど不正確であろう.このような類推手続きが 図 5b で観察された変動の原因かもしれない.一方,被験者は,ROR の場合 (図 5c の下降系列)上の行,同じ行を予想することを選んだのかも知れない. 上の行と下の行とを報告する教示音が同数あるということが与えられれば,こ れ(類推方略)は再び信頼できる得点を許容することになるだろう.同時に,二 つの行で正確さ異なることが観測されるであろう.(ROR の上の行に対する選 好は実験 7,図 10,11 でも再び明らかになる) 注意を等分に配分することが第三日目の最初に再び言い渡された.刺激のオン セットの 0.05 秒前(刺激終了 -0.10 秒後)の条件が導入された.この信号 は信号音によって示された行だけを見ることによって完全な応答が可能となる ように十分に前に提示されている.ROR の得点はこの条件と遅延なしの両条件 で 100% だった.図 5c の(上昇系列)崩壊曲線全体は図 5a のそれと非常に 類似している.図 5c の上昇系列と下降系列の間に 3/3 刺激が挿入された. 類推手続きは 3/3 材料を用いればほぼ完全に正答するためには十分であるか ら,遅延条件において下降系列が実施された場合,ROR は類推し続けた.類推 は長遅延条件では有効であるが,短遅延条件では短所であった. 図 6 は経験豊富な観察者である RNS の成績を示している.RNS は二つの方略 を実験者に伝えた(注意等配分と類推).できる限り教示に従って RNS は遅 延が 0.15 秒以上である条件では一番目の方略から二番目の方略に切り替えた と語った.それゆえ 3 つの短遅延条件では RNS はエラーが選好した(上の)行 と選好しなかった(下の)行とで等しかった.二つの長遅延条件ではエラーは 4:26 に分かれた.曲線の沈下は RNS が方略を,可能なかぎり素早くは変更で きなかったことを示している.そのような沈下はこの種の実験で特徴的に見 られるものである. ほかの被験者は同じ曲線を示した.これらは ROR と RNS ですでに示されてい るのでここでは書かかれていない.まとめると,教示音を遅らせる方法は短期 記憶の内容の崩壊を決めるためのあり得る要因である.しかし困難な経験,す なわち長遅延条件では,被験者の成績の変動を顕著に増大させている,そして それは短遅延条件でさえ実行されてしまう.これは刺激を観察することによっ て,注意等配分方略から類推方略へ被験者が方略を変化させてしまうことに起 因している. パート2:最終段階での成績 先の実験の分析から,報告教示音が遅延した場合,二つの異なる観察方略が発 達することが示された.最初の方略(注意等配分)による報告の精度は教示音 の遅延と相関する.それは被験者が刺激の全ての部分に注意を配分することと 関連している.もう一種類の(類推)報告の精度は教示音の遅延と相関しない. それは刺激のある部分への被験者の選好によって特徴付けられる.注意等配分 観察が以降の研究では選択される.先の実験から三つの修正により注意等配分 観察が起こりやすくなることが示唆される. 1. 多くの文字のある刺激,すなわち 3/3/3 と 4/4/4 を用いること.常に刺 激の小さな一部に注意を与えていると沢山の文字の刺激では強化されないだろ う.2 音の代わりに 3 音を用いることで,正解の音を類推することが減る. 2. 刺激のオンセットの直前に始まる教示音を用いて訓練すること.この状況 では被験者は類推する必要がない,なぜなら被験者は教示音だけに頼って成功 できるからである.この状況は注意の等配分が起こり易くするだけではなく, それ(訳注,注意の等配分)が起こったとき選択的にそれ(訳注,注意の等配分) を強化もする. 長遅延条件がテストされるとき,遅延の上昇系列が先に用いられるべきである, それは被験者が,特定の遅延系列の冒頭において,望ましい観察行動(訳注, 注意の等配分)になる確率が高くなるからである.この確率は,教示音が刺激 提示以前に与えられるか,あるいは,刺激終了後即時に与えられ,そして,被 験者が測定される特定の遅延条件まで引き続くような一連の試行を挿入するこ とによって,およそ 1.0 になるだろう.この退屈な手続きが試された,しか し,それは結果に対して目に見えるほどの効果を持たなかったため,続けられ なかった.問題は,被験者が少数の試行で二つのモードを切替えるようになる ことである. 3. 実験者は被験者の反応モードを言語的にコントロールすることができた. しかしながら,最初は,被験者は自身の行動をコントロールすることができな い.このことは,実験者ができることの限界を示唆している.例えば,しばし ば被験者は,各行に対して等分に(訳注,注意を)配分するように試みたのだが, 何音か後に被験者は選択的に特定の行に(訳注,注意を)払っていたことがわかっ たと報告した.これは音と(訳注,予想した)行が一致した場合と,それらが異 なった場合との両方でコメントされた. もちろん言語によるコントロールは可能である.良く理解できる教示は: 貴方はフラッシュに照らされた(訳注,複数の)文字を見ます,そしてそれはす ぐに消えます.これは,こういう条件化で文字を読む能力の視覚検査であり貴 方の記憶の検査ではありません.貴方は,フラッシュ中に,あるいは(訳注, 文字が)消えている間に,ある音を聞くことになります.その音は読むべき文 字を知らせます.その音が聴こえるまでカードを読んではいけません[などな ど]. その教示は実験の半ばで変えられた.被験者は,もはやどうしてもそうするこ とができるないほど,(訳注,応答)することになっておらず,上述の手続きに 限られていた.本実験の第 2 部は 9 文字と 12 文字を使って上で示唆された 三つの修正をした上で実施された. 結果. 3/3/3 と 4/4/4 文字と数字の結果が図 7 と 8 に示されている.二つ の縦軸は 正解率 ------ × 刺激の文字数 = 利用可能な文字数 100 という式によって,線形に関連づけられている.(訳注,図中の)各点は遅延条 件におけるすべてのテスト試行に基づいている.NJ と JC に対する教示音の ゼロ遅延点は,この被験者がその後の(訳注,成績の)改善を示さなかったので, 訓練試行をも含んでいる. データは,すべての被験者について,およそ一秒という期間は報告すべき(訳 注,行を示す)教示音としては,臨界的であることを示している.もし被験者 が刺激提示の 0.05 秒前に教示音を受け取ったならば,与えられた文字の 91%, 82% (それぞれ 9 文字と 12 文字に対応する)を正確に報告できる.この 部分報告法は,被験者は平均として,9 文字のうちの 8.2 文字,12 文字のう ち 9.8 文字利用可能であることを示していると解釈されよう.しかし,もし 教示音が刺激定時後一秒遅延したらは報告の精度は 9 文字刺激については 32% (69% へ),12 文字については 44% (38% へ)落ちる.この精度の実質的な 低下により,利用可能な文字数は,即時記憶(全体)報告で被験者が示した文字 数に非常に近くなる. 崩壊曲線は各被験者で,そして,全被験者の平均としても類似しており,規則 的である.個人差は顕著であるが,教示音の遅延効果と比べて小さいものであ る.例えば,教示音が刺激終了後ゼロ遅延で与えられたとき,被験者の中で最 小の精度は ND の 8.1 文字であった.一秒の教示音遅延は最良の報告精度は JC によるわずか 5.1 文字であった. 全体報告と部分報告とを比較した図 3 では,教示音が刺激に対してゼロ遅延 という特定の部分報告だけが考慮された.ゼロ遅延教示は,可能な刺激"後"教 示のうちの,もっとも早いという意味でのみ特殊であるが,機能的な差位はな いということが本実験から明らかである. それゆえ,図 9 では,一人の被験者 ROR の 0.15-, 0.50-, 1.00-秒の遅延教 示(訳注,の結果)がプロットされている.6 文字 (3/3),8 文字 (4/4) 刺激 のデータが 2 つの上昇系列から採られ,単調(訳注,な増加という)結果がえ られた.図 9 は正確にコントロールされた教示音の意義を,部分報告法と即 時記憶報告法との違いとして,明確に照らし出している.刺激終了後一秒の遅 延により ROR の部分報告の精度は,もはや全体報告の精度と全く異なるもの ではなかった.