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前口上

本書を出版するにあたって,一言口上を申し述べます。

若かりし頃,上の世代から良く戦後のモノの無い時代には…,などと言われました。ところが,私はバブル世代です。モノがあるのが当たり前の世代です。昔語りされても何の役にも立たはしない。時代に合った,役に立つ話をしろ,と憤慨した記憶があります。その時分から,もし自分がそのような立場になったのなら,決して昔の話を語るだけの老害にはなるまいと思っていました。過去の歴史を振り返ったり,考慮したりすることは大切ですし,過去の事例から学ぶべきでしょう。ですが,時代に即した知識でなければ,思い出話です。懐古趣味であって,現状を理解したり,前に推し進めたりする知識を生み出しません。過去に耽溺しても何も生まれません。こうした経験から,本書では懐古趣味に陥らないように注意しました。かといって最近のニューラルネットワークブームの熱狂は,過去の過ちを再び繰り返す恐れがあります。オイオイ,それは過去にこういう試みがなされて,その結果こういうことが明らかになっているぞ,と指摘することは意味があります。そこで力及ばずながらも、筆をとってみることにしました。 この本は1014年11月時点でのスナップショットです。機械学習,ディープラーニング(深層学習),及び,ビックデータについて体系的な教科書ではありません。その点はご了解ください。

カーツワイルの本を読んでいたら,バックアップにはメンテナンスが必要だとの記述がありました(カーツワイル著「シンギュラリティ」)。その意味では本書はニューラルネットワークの知識のバックアップです。ただしフルバックアップではありません。2014年11月時点での差分バックアップです。差分バックアップは時として必要です。バックアップそのものに,メンテナンスコストが必要なことを鑑みるに,このことは強調しておきます。本書よりも,体系的で網羅的で見通しの良い教科書が必要であると考えます。特に初学者にとって日本語で入門的な内容の書籍が必要であるとの意見を頂いた経験があります。それならば,先にその教科書を書け,とのご批判はもっともです。私にその教科書を著す能力があるかは疑問です。科学の進行の歴史を俯瞰的に眺めれば,専門分野は細分化され,多くの事実が明らかになるにつれ,謎は深まり,解くべき問題は詳細になっていきます。そのような中で機械学習,ニューラルネットワーク,ビッグデータなどの言葉では,一括して語れないほどこれらの分野の知識,取り扱う領域,は細分化されました。従って,それらを整理して提示するためには時間を書けた丁寧な議論と考察とが必要です。そのための仕事は尊敬に値しますが,どこかの時点でスナップショットを作成する作業は必要だと判断しました。

昨今の状況で紙媒体の出版物が意味を持つのだろうか,という考えは存在します。PLOS ONE, arXiv に代表される速報性を持った媒体での知識が圧倒的多数を占める現状で,出版した瞬間に陳腐化する知識を公刊する必要などないとも考えます。今後このような形態での出版が意味を持つのか,改めて問うてみる必要も感じています。更新されない科学的知識など存在しないとの思いから,本書を書いてみることにしました。是非忌憚のないご意見をいただけますよう,お願い申し上げます。

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