赤の女王仮説というのをご存知だろうか。進化遺伝学の専門用語であるが, ルイス・キャロル「鏡の国のアリス」に登場する赤の女王が, 「その場にとどまるためには、全力で走り続けなければならない」といったことから, 種・個体・遺伝子が生き残るためには進化し続けなければならないこととして用いられます。
生物は病原体などの相互作用が生存にとって重要であり, 絶えず変化する外的環境に対応して適応できるタイプは終始変化します。 これが遺伝的には有性生殖,突然変異によって進化を続けて行かなければいけない理由なのです。
また,植物を食べる昆虫などに対処するため,植物はその害虫に対する毒性を進化させる。 その害虫の方は,それに対する解毒作用をすぐに進化させて適応してしまう。 このように, 敵対関係にある生態系では変わり続けなければすぐに絶滅の危機に瀕してしまうのです。 自身の生態学的地位を保持するためには「赤の女王」で変化し続けなければいけないのです。
アカの女王でなければアカんのだ。
恋人や配偶者に愛され続けるためには「赤の女王」でなければいけないのでしょうか。 「その場に留まる(相手に飽きられない)ためには絶えず変化する必要がある」のでしょうか。
いや,そうは思いません。
ダーウィニズムに従う限り,変化(突然変異)には方向性がありません。 つまり,良い変化もあるけれど, 同時に悪い変化(自分には似合わないとか,相手の好みと真逆な方向とか)もありうるでしょう。 ダーウィニズムでは, 変異した個体が生き残るためには,別のメカニズム,自然選択が働く必要があります。 個人が生きている間にこの自然淘汰が働くはずはないのであって,今愛されているのならば, その愛を維持する努力(お弁当を作ってあげて家庭的な面をアピールするとか, キレイになるためにダイエットに努力するだとか...)を怠らない方が得策なのではないでしょうか。 (ポチャットした子が好きという男性もいるから,ダイエットの例は適切じゃないかも) 「赤の女王仮説」に従って, 変化しても,「赤」の他人に好かれるようになっても仕方ないでしょう。 今の彼にもっと好きになってもらった方が楽しいしー。
ところがそうでもないという研究もあるのです。 他個体の行動をまねる行動(髪型とかスカートの丈とか...), 習慣,流行,イデオロギー,はては農耕文化が広がっていった過程とか,が拡散したり, 世代を越えて伝わったりする様子は, 生物の個体群の拡散や疫学的流行と類似のモデルで記述できるという研究があるのです。 すなわち,ある文化が他を駆逐して広がっていくダイナミクスは, 集団遺伝学の遺伝子置換過程と似ているというのです。
そうだとすると,集団遺伝学の原理が社会的行動にもあてはまるのであれば, 「赤の女王仮説」もあてはまるのでしょうか。すなわち, 「その場にとどまるためには、全力で走り続けなければならない」, 絶えず変化する必要があるのでしょうか。
先にも書いたとおり,たえず変化し続けるために相当な努力が必要です。 難儀な話ですね。 「アカの女王」 なんてアカんべーだ。
生きているかぎりからなず老化します。私など経年劣化がはなはだしいです。 健康診断でも毎年どこか悪いところが見つかるし,中年太りで腹は出てくるし, 年をとったなーとつくづく感じます。 当然,異性を惹き付ける性的魅力も年々落ちているわけでして, ここ数年,誕生日,バレンタインデー,クリスマスなど, 若い恋人たちの記念日に何か良いことがあったためしがないです(T_T)。
「アカの女王仮説」 に従って変化し続けてもアカ抜けないからかなー。 「アカの女王仮説」に従っても実生活ではらちがアカない? こりゃ,アカんわ。