種内競争を持つロトカ・ヴォルテラ方程式
もし,捕食者がいなければロトカ・ヴォルテラ方程式(2) の被食者は となり,その解は指数関数 となって個体数が爆発的に増加するという話は以前しました。 これは,被食者の個体数の増え方にロジスティック方程式 を仮定することで修正できます。 捕食者の種内競争も同じくロジスティック方程式に従うとすると, (2)の代わりにを考えます。 この場合周期解になるとは限りません。 パラメータのとり方によってはある種が絶滅する場合もありえます。 一例を下図に示します。
種内競争をもつロトカ・ヴォルテラ方程式
実習
LotkaVolterra2.class をダブルクリックしてください。上の図を描くシミュレータが起動します。
アイソクライン法
このときの の平衡点を解析するために少し変形してみましょう。 x=0, y=0 すなわち両個体がいないときには変化がないのはすぐ分かります。 それ以外は, 傾き 0 の アイソクライン isocline (iso とは「同じ」という意味であり,cline とは「傾き」という意味)
と,同様に のアイソクライン
を考えます。 この二直線の交点が平衡点となる。平衡点の座標は となります。 このとき x と y との増減は以下の表のようになります。
x, y とも減少 | x は増加,yは減少 | |
x は減少,y は増加 | x,yともに増加 |
すなわち,アイソクライン線の上下で x と y との増減を考えることができるわけです。 この方法のことをアイソクライン法と呼んでいます。
ここで,パラメータをいじっていろいろ遊んでみましょう。 たとえば,a=8, b=1, c=-6, d=-1, e=1, f=1 を考えます。 この場合, だけが安定な平衡点になります。 パラメータにマイナスを使っているので, もはや捕食者,被食者と呼ぶのは正しくないかも知れません。 そこで x 種 と y 種と表現することにすると,この場合 y 種は滅びる。 最初にどんなに y 種の個体数が多くても は不安定平衡点であるので y 種は生き残ることができないのです。
a=8, b=1, c=-6, d=-0.3, e=1, f=1 を考えます。 この場合,両アイソクライン線の交点が安定な平衡点になって, どのような初期値から出発しても (3,5) に収束します。すなわち x 種と y 種との共存が実現するわけです。
a=8, b=1, c=-10, d=-1, e=0.5, f=1 を考えてみましょう。 この場合,両アイソクライン線の交点は不安定平衡点になる。初期値によって y 種だけが生き残る か,x 種だけが生き残る に収束する双安定になります。
このようにパラメータを変化させると,2 種の共存か, 競争によって 1 種だけが勝ち残ることが生じます。 たとえば,2 種のトカゲが多数の島に棲んでいたとしましょう。 気候条件や栄養状態, 島の大きさなどがほぼ同じであっても, 両種が生息している島がないとすれば, 競争関係のために共存できなかったと考えられるわけです。 そのため,環境の変動や個体数などのランダム性のため島の個体群が滅びることが起こりというわけです。
もう一つの安定なロトカ・ヴォルテラ方程式,リミットサイクル
ロトカ・ヴォルテラ方程式をもう少し現実的にしてみましょう。
というモデルを考えます。 オリジナルのロトカ・ヴォルテラ方程式からの変更点は, 以下のとおりです。
- 捕食者のいないときに被食者は無限に増殖することはせず, ロジスティック方程式に従って環境収容力 K に収束する。 これは y=0 とおけば確かめられます。
- 捕食者の摂食速度を としたこと。 これは,餌が多いときには捕食速度は餌の量とともに増加します, あまりに多いと食べきれなくなるため飽和し,上限値 a/h を持ちます。
K が有限で h=0 であれば被食者の個体群を安定させる働きによってロトカ・ヴォルテラ方程式 の振動は止まります。
アトラクター
一方,捕食速度の飽和傾向だけを考慮すると K = ∞, h>0 システムは大域的に不安定になり,振動の振幅が時間とともに大きくなる。
この両方の効果が加わると 極限周期道(リミットサイクル) limit cycle が現れます。
リミットサイクル r=0.18, K=30.0, a=0.02, h=0.1, b=0.0504, c=0.25
実習
LotkaVolterra3.class をダブルクリックしてください。アトラクターやリミットサイクルが現れるパラメータを探してください。
殺虫剤に害虫の駆除は効果があるか
害虫 x と天敵 y を考え,
に殺虫剤の効果 -mx が加わったモデルを考えてみましょう。
殺虫剤を散布すると害虫 x は減るのでしょうか。 もちろん殺虫剤を散布すれば害虫の数は減ります。 ところが(28)の平衡状態を調べると m があっても平衡状態は変化しないことが分かるのです。 つまり害虫の増殖率を下げる効果が天敵 y のレベルを下げ, その結果,害虫の増殖率を上げるように働く効果があるのです。 これらの効果が打ち消しあってしまいます。
実際には,殺虫剤の効果 m は,天敵 y の生存率も下げるでしょう。 すると(28)の右辺にも -my という項を付け加えるモデルが考えられます。
この場合,殺虫剤の散布はかえって害虫 x の個体数を増加させてしまいます。 このように, 殺虫剤の散布がかえって害虫の個体数を増加させてしまうことはしばしば見られることなのです。 害虫が突然変異によって殺虫剤への耐性を進化させたと考えるよりも, 案外こういうところに原因があるのかも知れません。
ロトカ・ヴォルテラモデルの拡張
捕食者と被食者が多様な生態系では,ロトカ・ヴォルテラ方程式の多変数拡張が 用いられます。
種間の相互作用 aij は,i 種が j 種の捕食者であるなら
a
たとえば,光合成によって有機物を作る植物は生産者と呼ばれ,それを食べる 一時消費者(草食動物),さらにそれを食べる2次消費者(肉食動物)というように 多様な生態系が形作られます。 この(31)の安定性解析を行うことで,現実の生態系の実体に近づくものと思われます。
参考文献
- カール・シグムンド/冨田勝監訳. (1996). 数学でみた生命と進化. 東京: 講談社ブルーバックス.
- バージェス, & ボリー著/垣田,大町訳. (1990). 微分方程式で数学モデルを作ろう. 東京: 日本評論社.
- ホッフバウアー, & ジグムント/竹内康宏,佐藤一憲,宮崎倫子訳. (1998). 進化ゲームと微分方程式. 東京: 現代数学社.
- 佐藤總夫. (1984). 自然の数理と社会の数理 I,II. 東京: 日本評論社.