第4回 2011年5月20日

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個体成長とカオス

個体成長が,ある法則 f に従うとすると,現在の状態を x として,次の世代の状態は y は, y = f(x) と表せますね。 さらにその次の時刻は,f(y) または f(f(x)) と表せるわけです。 順次このようにして,計算を繰り返せば,3 世代,4 世代後の状態は, f(f(f(x))) などのように計算できるわけです。 この繰り返しの仕組みを,コンピュータで計算させてやればグラフが描けるということになります。

指数的成長

世代が分離した個体群の成長率を R とします。 これにより

eq1

R が一定ならば t 世代後の密度は Rtx となり R>0 では無限大への爆発的な成長になります。 時間が連続的に与えられいるのであれば

eq2

という微分方程式となります。ここで t は時間を表します。 これを解けば,

eq3

と指数成長関数を得ます。 すなわち人口の増加率が指数的に増加することを意味します。 増加率は R によって決まります。R のことを マルサス係数 といったりします。

指数的成長は現実的ではありません。 なぜなら,成長速度は爆発的に増え続け,すぐに天文学な数になってしまうからです。 こんな,言い伝えがあります。

昔,戦争好きの王様がいて,いつも自分の力を頼んで戦争ばかりしていました。 弱り果てたのは王の下にいる人々です。王の圧政に苦しみました。 その民の困窮をみかねた賢者が,新しいゲームを考案して王に献上しました。 その新しいゲームというのが,2人制チャトランガだったのです。 王は,この戦争を擬したゲームに夢中になりました。 そして,実際の戦争を止めてしまったのです。 民は喜びました。そして,国に平和が戻どり,豊かになったのです。 国が豊かになったのを見て,王様も喜びました。 王は,賢者に「何か,褒美はいらないか」ともちかけました。 賢者は,それではと言い 「チェス盤の初めのマス目には米を一粒,次のマス目にはその倍, その次のマス目には更にその倍の米を。 そしてマス目ごとに倍,倍となるように 64(チェス盤は 8×8) のマス目まで続けていき,その盤上に相当する分だけ米をください」と言いました。 王は,快諾しましたが,賢者の言うとおりに米をならべていくと皆が分かった事というのは, 2 の 10 乗(210=1024)。 2 の 64 乗(264)では,およそ 1019と莫大な量の米になります。 国中の米倉にある分ではとても足りない。 これを知った王様は,真っ青になりましたが,賢者は落ち着いて 「この様な無謀な約束をなさいますな」と言ったそうです。

また別の例を紹介しますと,理想的な実験室環境にバクテリア細胞が 1 つあったとしましょう。 この細胞は 20 分ごとに分裂します。 この数値は,理想的な環境での世界記録として知られているそうです。 20分後には 2 個の娘細胞を持ちます。40分後には4個の孫細胞が, 1時間後には8個のひ孫細胞が存在します。1時間で3世代存在するのですから, 1時間後には,23 = 8 となるわけです。 1日では 24 時間ですから 24 × 3 = 72 世代。3日間では 72 × 3 = 216 世代となります。 2216 = 1065 この細胞の全質量は, 地球の質量をはるかに超えた厖大なオーダーの大きさです。

2 ロジスティック成長

指数的成長を抑制する方法は種々あります。 個体群が大きくなれば資源がそれにし たがって減少したり,栄養状態が悪化したりして,成長率も小さくなります。 成長率は r と K を正の定数として

eq4

という ロジスティック方程式 で表わされます。(2)式との違いは,rx の項と (1-x/K) の項とがあることです。 このとき x が小さい時は, x/K が無視できるくらい小さいので,増加率 r に従って指数的に増加します。 つまり (2) に従って指数関数的に増加します。 r は個体密度が小さくて環境資源が十分にあるときの増加率を示しているとも考えられるので, 内的自然増加率 intrinsic rate of natural increase と言います。 一方 x が K に近づくと増加率は 0 に近づきます。 すなわち平衡の個体数 K に達します。

K より大きな値 x(0) で出発した時は,減少して K に近づき, 逆に x(0) が小さな値で出発した時は S 字型のカーブを描いて K に収束します。 K はその環境中に維持できる個体数という意味から, 環境収容力 carrying capacity と言います。

ロジスティック方程式は簡単に解析ができて,x=0 または x=K ならば dx/dt は 0 です。 この場合個体密度は変化しません。 0 < x < K に対しては,x は増加し x > K では減少します。 この解は

eq5

として,部分分数の和にし,

eq6

項別に積分すれば

eq7

だから結局,

eq8

対数の加法公式から

eq9

対数を元に戻して

eq10

となり

eq11

x について解くと

eq12

です。t=0 のときの x の値を x(0) とすれば

eq13

となります。この式を C について解けば,C が x(0) から求められます。

eq14

これを(12)に代入すると,初期問題の解が求められます。

eq15
eq16

念のためこの式で t=0 にしてみると

eq17

です。 (15)で,t=0 とすれば,

eq18
Logistic

実習

以下のように,今日の自習教材をコピーして,

cp -rp ~asakawa/20110520 .
cd ./20110520

としてください。そして,

java LogisticEquation

とすれば,ロジスティック成長のグラフを描く Java のプログラムが走ります。 ここで 初期値 x(0),環境収容力 K,内的自然増加率 r を変化させて, いろいろ遊んでみてください。

ロジスティック方程式 (4) には,x = 0 と x = K という 2 つの平衡点 equilibrium が存在します。平衡点とは,ある系がある状態におかれたとき, その後もずっとそこにとどまる点を指します。 これは dx/dt = 0 から求めることができます。 x = K の平衡点は,個体数がずれたとしても,時間がたつと元の状態に戻っていきます。 この意味で x = K は 安定な stable な平衡点であるといいます。

一方,生物の不在を表す x = 0 の点では,わずかな生物が侵入してきても, 時間とともに x = K に写ってしまいます。従って x = 0 は, 不安定な unstable 平衡点と呼ばれます。

2 つのパラメータ K と r が栄養状態や個体密度などの環境条件によって, どのように変化するのかを調べることによって,次のようなことが分かってきたそうです。

すなわち,植物の平均重量は,ロジスティック方程式に従って成長します。 その最大サイズ K は密度と反比例します。 その結果,平均個体重と密度の積が最終的に一定になる,ということです。

練習問題

r=1, K=1 とすれば,式(4)は,

eq19

となります。この式を解いてください。

低密度の影響 アリー効果

個体密度が高いことは必ずしも悪影響を与えるばかりとは限りません。 なぜなら,個体密度が低過ぎると生物個体間の協力的相互作用が得られず, 死滅してしまうかも知れないからです。 たとえば,昆虫で,一匹の幼虫だと葉への食いつきができなくて死んでしまいますが, 数個体の幼虫が一緒にいるとうまく生きられたりするそうです。 このような低密度の悪影響のことを アリー効果 Allee effect と呼んでいます。 このときの個体群動態方程式として,

eq20

を考えてみましょう。ここで 0 < a < K とします。この式は, dx/dt = 0 という平衡点から x = 0, x = a, x = K と 3 点あることになります。 下の図 からわかるとおり,x = 0 と x = K とは安定な平衡点です。 一方,中間の x = a は不安定な平衡点であると言います。

Allee

生物がいない場所にわずかな個体数が侵入してきても, 低密度のため増加できない場合があることを示しています。 しかし,侵入個体数が a を越えると,環境収容力 K まで増加して定着することができます。 このような a を しきい値 と呼びます。

実習

同様にして java による実習をしてみましょう。

java AlleeEquation

としてください。 初期値 x(0), 環境収容力 K, 成長率 r, しきい値 a を様々に変化させることによって, グラフがどう変わるのかを実感してください。

離散時間のロジスティック写像

世代が重ならない個体群の場合(例えば,1 年に1 世代を過ごす昆虫)を考えます。 Xt を t 世代目の個体数とします。 連続時間のロジスティック回帰と同じく r を成長率。K を環境収容力として, t + 1 世代目の個体数は次式

eq21

で表せます。個体数が低密度の場合には, 毎世代ごとに 1 + r 倍で増加しますが, 個体密度が高くなるにつれて増加率が落ち, 環境収容力 K を超えると減少するようになります。