VIRN視覚障害リソース・ネットワークVision Impairments' Resource Network
Last update 1997.3.21 |
中村透(日本ライトハウス)
視覚障害リハビリテーション協会(以下リハ協と略す)では、昨年1月17日に起こった阪神・淡路大震災の視覚障害被災者に対する支援として、「歩行訓練及び日常生活訓練、その他の相談・助言をボランティアで行う」という活動を、1月末日に会員に対する呼びかけを行って以来、継続してきました。
今回、この活動が平成8年3月末で終了しましたので経過等を含め報告いたします。
2.視覚障害リハビリテーション協会の今までの活動経過
(1)リハ協会員に対しボランティアへの参加呼びかけ
1月末にリハ協会員に対するボランティアへの参加呼びかけを行いました。その結果短期参加を含め約40名程の会員から参加の意向が事務局に告げられました。
(2)震災に関する事務局の設置
平成7年3月中旬に日本ライトハウスの協力を得て、今回の活動に対する視リハ協事務局を設置しました。
事務局においては被災地域の情報を収集するとともに、兵庫県や神戸市などに活動についての協力(視覚障害者の方からの申し込み窓口及び広報)を要請しました。
平成7年3月末日の時点では、兵庫県、神戸市、西宮市の各自治体がこの要請に応じ、神戸市では市の視力障害者協会が、西宮市では障害福祉課がそれぞれ訓練受付窓口として協力、同時に広報紙やテレホンサービスを通じての広報等も行ってくれました。
このことで相談受付窓口は各地域が、集約はライトハウスの事務局が行うというラインができました。
(3)ニーズ調査
リハ協会員には今回の活動に対し、「4月、5月の土日に参加できる人」ということでボランティアの呼びかけは行ったものの「果たして歩行訓練などの希望が出てくるのか」疑問に思われ、具体的な活動を行う前に、阪神間に住むリハ協会員、非会員に呼びかけ4月初旬にニーズ調査を行うことにしました。
ニーズ調査には、大阪府盲協、豊中市、神戸視力、その他の各団体・盲学校などから延べ10数名が参加し、ハビー(震災に伴う視覚障害者支援組織)から提供してもらった視覚障害被災者の名簿をもとに、現在の生活状況や歩行訓練など訓練に対するニーズあるいはヘルパー派遣の状況などを直接訪問や電話などにより調査し、約40〜50名の方から状況を聞くことができました。
調査の中では訓練のニーズはそれほど沢山は出てこなかったものの、「仮設住宅に入った後は必要になるかも」「街の状況がもう少し落ち着いたら・・・」などの気持ちを持っている視覚障害の方が数名いたことも報告され、今後の広報次第によってはある程度まとまったニーズが出てくる可能性があることが分かり、リハ協ボランティアに応募した会員には、まずゴールデンウィークを中心に活動してもらい、その後に希望が上がってきたケースに対しては、阪神間の会員等で対応する方針を立てました。
(4)ゴールデンウィーク集中訓練
GWの活動は4月29日から5月7日までとし、応募したリハ協会員の中でこの間4日以上継続的に参加できる人にお願いしました。
GWの活動には京阪神以外の各地区から11名(北海道リハビリ協会、積善学園、長崎県立身障センター、筑波附属盲、その他)が参加し、国立神戸視力障害センターの好意により、センターに寝泊まりをしながら連日訓練を行いました。この時点での訓練対象者は18名(連日訓練を受けない人も含む)で、参加者で担当を振り分け、仮設住宅の周辺の歩行訓練、通勤経路が変わってしまったためのFam、転居先周辺の商店、風呂屋、さらには被災した人の元の家までの手引きなど、対象者のニーズに応じて様々な訓練や情報提供を行いました。
(5)ゴールデンウィーク以後の活動
GW以降は訓練希望者が集中することがなく、散発的に出てくる度に調整をつけ阪神間に在住の関係者が訓練を行いました。また、継続的に訓練が必要なケースについては、地元の兵庫盲導犬協会や関西盲人ホームで比較的多くの訓練希望者を受け入れてくれました。
訓練希望者は10月を過ぎるとほとんどなくなり、平成8年3月末日で活動を終了しました。
3.対象者の概要及び活動結果
表1は、対象者が訓練申し込み時点で居住していた地域と、性別を表したものです。
地域 | 男 | 女 | 計 | % |
神戸市 | 13(1) | 5 | 18 | 56 |
西宮市 | 4(1) | 2 | 6 | 19 |
その他 | 7 | 1 | 8 | 25 |
計 | 24 | 8 | 32(2) | |
% | 75 | 25 |
平成8年3月までの相談申し込み件数は32件で、そのうち訓練を実際に行ったのは30件(訓練実施率93.7%)です。地域の内訳は神戸市が18名(56%)と最も多く、続いて西宮市と姫路市の網干が6名(19%)となっています。性別では、男性24名(75%)、女性8名(25%)と男性の方が多くなっています。
表2は、対象者の年齢を表したものです。
年齢 | 男 | 女 | 計 | % |
30代 | 6(2) | 1 | 7(2) | 22 |
40代 | 7 | 3 | 10 | 31 |
50代 | 7 | 2 | 9 | 28 |
60代 | 4 | 1 | 5 | 16 |
70代 | 0 | 1 | 1 | 3 |
計 | 24 | 8 | 32(2) |
40代が10名(31%)と最も多くなっていますが、対象者が各年齢層にわたっていると言えます。しかし、全体的に年齢層が高く、特に30代以下の視覚障害者からの訓練依頼はありません。窓口が各視力障害者協会になっていたことの影響が考えられるかもしれません。
表3は対象者の住居形態と世帯を表しています。
住居・世帯 | 単身 | 同居 | 盲世帯 | その他 | 計 | % |
自宅 | 0 | 6(1) | 2 | 1(1) | 9(2) | 28 |
転居 | 0 | 1 | 0 | 9 | 10 | 31 |
仮設 | 7 | 1 | 4 | 0 | 12 | 38 |
施設 | 0 | 0 | 0 | 1 | 1 | 3 |
計 | 7 | 8 | 6 | 11 | 32(2) | |
% | 22 | 25 | 19 | 34 |
自宅とは震災前と同じ住居に住んでいることを表し、転居は震災後に賃貸住宅などに移り住んだことを示し、仮設とは、仮設住宅に入居したことを表しています。施設は、震災前から住んでいる施設(このケースの場合は老人ホーム)です。また、世帯では、単身は本人だけの単身世帯を、同居は、晴眼者の家族との同居を、盲世帯は視覚障害者だけの世帯を、その他は、治療院の寮に同僚と複数で住んでいたり、友人宅に身を寄せている人などを含んでいます。
表から、自宅のケースは9名(28%)で、対象者の約1/4は今も自宅に住んでいます。しかし、転居10名(31%)・仮設12名(38%)合計22名の7割強が震災後転居を余儀なくされ、それに伴う訓練を申し込んできており、今回の震災で住居を失った視覚障害者が多数いることを伺わせます。
表4は、対象者の住居形態と訓練回数をリンクさせたものです。
住居・回数 | 1 | 2〜3 | 4〜5 | 5回以上 | 計 |
自宅 | 3 | 4 | 0 | 0 | 7 |
転居 | 0 | 2 | 4 | 4 | 10 |
仮設 | 3 | 3 | 5 | 1 | 12 |
施設 | 0 | 0 | 1 | 0 | 1 |
計 | 6 | 9 | 10 | 5 | 30 |
% | 20 | 30 | 33 | 17 |
訓練の回数は、申し込み時点で「数回程度の訓練」ということを各ケースに伝えてあったので、2〜5回程度で訓練を終えているケースが多くなっています。中に5回以上訓練を行っているケースが5名(17%)いますが、これは、兵庫盲導犬協会と豊中市の訓練士が所属施設の訓練対象者として扱ってくれたために実現したことです。また、訓練が1回で済んでいる場合も6名(20%)ありますが、これは、本人の視力の状態や訓練ニーズ、歩行能力によるものと考えられます。
全体的な傾向として、やはり元々の自宅で住み続けているケースの訓練は比較的少ない回数で、転居したケースはそれなりの時間がかかっているようです。
表5は訓練対象者の訓練ニーズを簡単に表したものです。目的地が多岐にわたっているケースが18名(60%)で最も多くなっています。
ニーズ | 人数 | % |
目的地多岐 | 18 | 60 |
居住地域周辺の商店などのみ | 6 | 20 |
自宅から最寄りの駅まで | 3 | 10 |
勤務先まで | 2 | 7 |
施設内の移動 | 1 | 3 |
計 | 30 | 100 |
もともと地域で生活していたケースばかりなので、新しい地域に移っても、生活に必要な箇所への単独での移動の希望は強くなっています。この中であげられている目的地は、仮設あるいは転居先周辺の理髪店、美容院、病院関係(歯科医、内科、眼科など)商店(個人商店、スーパー、コンビニなど)、銀行、郵便局、最寄りのバス停・駅などです。
訓練士は、すべてとは言えませんが、訓練結果からみると少ない訓練回数ではありますが、相当程度のニーズは満たしています。
被災者として特徴的なニーズは、「仮設住宅内のゴミステーションまでの移動」と「通勤経路の変更に伴う交通機関の利用と駅のfam」です。仮設住宅の敷地内は変化がなく、ゴミステーションへは行けるが、自宅の入り口がなかなかわからない。また、住み慣れた所であれば周囲の人に聞けるが、仮設では知り合いが全くいないので、援助がなかなか受けられない、などの訴えもありました。中には、視覚障害者であることがわかって「火を使うな」と言われたケースもいました。「たかがゴミステーション」とも思いますが、そこに単独で行くことの意味は大きいと思われました。
自宅は明石でなんとか無事であったが、勤務先が三宮にあり、私鉄が寸断されていた状況の中で代替バスを利用しての通勤を余儀なくされたケースや、震災前、自宅で治療院を開業していたが、震災で自宅がなくなり仮設住宅に移り、そこから新たに決まった就職先まで通勤するケースなどもありました。
しかし、相談のみで訓練は実施しなかったケースの中に毎日通勤している人がいましたが、結局毎朝夕、自宅と勤務先の往復をボランティアを使って移動することにしたようです。理由は「動いている路線に人が集中し、とても単独で移動できないし、こんな状況では援助も依頼しにくい。また自宅周辺が寸断された幹線道路の迂回路になっており、普段は通らなかったトラックなどで朝早くから渋滞していて、とても一人で毎日歩く気にはなれない」とのことでした。
いずれにしても震災は単独で移動していた視覚障害者にとっては、住み慣れた環境を一変させてしまいました。
4.3月末日時点での各ケース及び協力機関の状況
3月の時点で訓練を実施したケース及び協力機関にその後の様子を問い合わせました。以下に簡単にまとめます。
1)ケースの状況(1)北区の仮設住宅に単身で生活している女性:
<支援内容> 仮設周辺のFAM、駅の利用、金融機関、買い物、 長田区までの経路など
<コメント> GWの訓練後震災前に住んでいた長田区にある病院などに一人で 通えるようになり、非常に助かっている。現在でも月に3〜4回は 行っている。 反面仮設の周囲は非常に不便で、買い物に行っても店の人が手伝 ってはくれない。日常の買い物などはホームヘルパーが頼りである。 住宅については、以前住んでいた地域に戻りたいが、再開発地域 に指定され、戻ることはできない。空き家募集がかかる度に公営住 宅に申し込んでいるが、未だに当選せず、今後の見通しはたってい ない。 転居後はまた訓練を受けたい。
(2)灘区の仮設に生活している全盲夫婦:
<支援内容> 夫に対する支援:運動不足にならないための散歩コース、近隣の 喫茶店までの移動 妻に対する支援:仮設周辺のFAM、商店街、金融機関、駅までの 移動経路など <コメント> 訓練したコースはその後工事が入り移動できなくなった。ルート を替えようと思ったがどこへ行っても工事にぶつかるので、当面は 単独での移動はあきらめ、もっぱらホームヘルパー(週2)に頼っ ている。しかし、喫茶店へは夫婦でちょくちょく出かけている。 仮設からの転居のめどは立っていない。一般の住宅に入ろうとし ても高くて手がでない。公営住宅の募集に申し込んではいるが、い つ入れるのか不安である。
(3)西区の仮設で生活している夫婦(夫弱視、妻全盲)
<支援内容> 夫に対する支援:仮設周辺のFAM、バスの利用、垂水駅までの経路など 妻に対する支援:仮設内のゴミステーションまでの移動 <コメント> 仮設内で仕事(理寮)を始め、仮設内の知り合いも増え、生活に も慣れ何とか暮らしている。訓練した駅までは頻繁に行っている。 買い物などはボランティアグループの人が手伝ってくれる。妻の方 は単独で動くことは難しいようだ。 住宅については空き家に申し込んではいるが、全くめどはたって いない。
(4)西宮在住のマンションが全壊になった全盲夫婦
<支援内容> 全壊したマンションが建て直しになるに伴って、マンションから 少し離れた所へ転居。最寄り駅までの経路が、今までと少し違う経 路になったためのルートのFAM。 <コメント> 訓練した経路で夫婦とも移動は安全にできており、毎日単独で勤 務先まで通勤している。訓練を受けた当初は、国道が陥没していた ために迂回路(このためにダンプなどが狭いところに入り込み渋滞 していた)となっていた道を歩かねばならなかったが、現在では国 道が開通し、危険な状態は少なくなった。
(5)網干で治療院を共同経営しているグループ(震災直後に長田区から移ってきた) <支援内容> 治療院に勤務している6人に対する、治療院周辺のFAM(寮にな っているアパート、買い物先、病院、喫茶店、駅までの移動ルート など) <コメント> 治療院の経営は順調にいっており、昨年には新しい店を「長浜」 にもオープンした。当時網干に勤務していた人間も、今では長田区 の店に行ったり、長浜にも移ったりしている。 訓練を受けた者の中に、それまでは全く一人で動こうとせず、買 い物も全部同僚に頼んでいた人が、訓練を受けた後に一人で行動す る意欲が出てきたらしく、今でも買い物は自分で行っている。
2)協力機関及び行政の状況
○神戸市視力障害者協会
“比較的最近は落ちついてきている。千山荘などに避難した高齢の協会員はそのまま千山荘で暮らすことになったそうだ。歩行訓練に関する希望は時々出てきているとのことで、現在は神戸市在住の歩行訓練士が若干ではあるが、対応をしている。リハ協の活動への遠慮があり、最近では連絡しなかった”とのことでした。(電話の雰囲気ではかなり要望があるようだが、当初に比べて歩行訓練に関しては視力障害者協会そのものが積極的ではないように感じました)
○神戸市
歩行訓練についての必要を感じ、“本年度から「中途失明者の緊急生活訓練事業」を充実させるつもりである”との話でしたが、現実的には“財政事情等により実現しなかった”とのことでした。(あまり考えるゆとりもないといったところのようです)
○西宮市障害福祉課
担当者が移動していました。後任の方が“リハ協の活動が終了したことは伝えておく”とのことでした。(西宮市からの訓練の依頼はあまり多くはありませんでした)
○西宮市視力障害者協会
“西宮市はガイドヘルパーが充実しているので、最近では皆あまり単独で歩くことはない”とのことでした。(協会員に高齢の方が多いようです)
5.終わりに
以上、リハ協の活動経過と結果について記してきました。我々の活動に関して、各機関も対象の方も一様に感謝の意を表してくれましたが、しかし、この活動を1年間終了するにあたりどれ程現地の視覚障害の方にとって役に立ったのか疑問が残るところです。震災後1年を過ぎ、表向きは平静を保っているように見えますが、「復興」のための事業は各地域で行われており、環境が刻々と変化していく状況はまだまだ続きそうです。
ややもすると市街地の「復興」に目を奪われがちですが、その陰には「復興」の名のもとに、地域に戻れず、仮設住宅での長期に渡る生活を余儀なくされているケースも多く存在します。コメントにもありましたが仮設住宅に住んでいる人の多くは転居のめどは全く立っていません。仮設の期限である1年後はどうなるのでしょうか?それまでにうまく転居先は見つかるのだろうか?転居後にその周辺の歩行訓練をどの機関が、誰が提供するのでしょうか?
建物や幹線道路の復興は重要なことでしょうが、そこに住む住民の生活基盤の確保はより重要な課題と思うのですが・・・。「財政事情がゆるさない」とのことで、視覚障害者に対する地域でのサービスができないことは大きな問題であると感じます。被災地域に住む視覚障害者の生活が1日でも早く安定することを願い、報告を終わります。
最後に、本活動に協力して頂きました方々に厚く御礼申し上げます。
<文責:日本ライトハウス 中村>
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